「回転しない寿司」路線から6年 元気寿司が思い知った“意外な効果”:回転レーンの土台は活用(1/5 ページ)
大手すしチェーンの元気寿司が「脱・回転」路線を打ち出している。回転レーンをやめて、注文された商品のみを特急レーンで提供。国内の152店のうち122店を「脱・回転」させた結果、思わぬ効果が生まれた。
なぜあの企業は「戦略転換」したのか:
事業がうまくいっても、それが長く続くとは限らない。時代に合った新事業の立ち上げや経営方針の転換ができれば、持続的な成長につながるだろう。しかし、新しい戦略を実現し、成功させるのは簡単ではない。戦略転換した企業の収益の推移を追いかける。
大手すしチェーンの元気寿司(宇都宮市)が、回転レーンを次々と撤去している。回転レーンの土台を残し、お客が注文した商品を特急レーンで提供するスタイルに変えたところ、店舗の売り上げが平均して2割アップしただけでなく、さまざまな副次的効果が得られるようになったというのだ。国内の総店舗数は152店だが、回転しないすしの店舗数は122店にまで増えた(2019年2月末時点)。
「脱・回転」路線を打ち出して、どんなことが見えてきたのか。同社の法師人(ほうしと)尚史社長に聞いた。
かつては業界トップクラスだった
まず、元気寿司の概要について簡単に説明しよう。同社は1979年に創業した老舗のすしチェーンだ。創業以来、順調に発展を続け、2008年3月末には国内の店舗数が196店まで増加した。法師人社長は「私が30年以上前に入社したときには、売り上げは業界トップクラスで、日本一の会社で働いているという自負がありました」と振り返る。しかし、その後、他の競合チェーンが「1皿●円」という均一価格で攻勢をかけてくると徐々に劣勢となった。また、無理な拡大路線がたたり、大量閉店に追い込まれたこともあった。現在は、小型店舗で小商圏をターゲットにした「元気寿司」や、郊外にある大型店舗の「魚べい」などを運営している。
劣勢を跳ね返すため、同社は既存店を魚べいに変えていった。魚べいを強化するにあたり、メニュー改定や作業効率のアップといった改革を実行していったが、目玉となったのが「回転しない寿司」路線だ。具体的には、回転レーンにすしを流すのをやめ、お客がテーブルで注文するたびに特急レーンで提供するスタイルに変えたのだ。
なぜ、同社は路線変更に踏み切ったのだろうか。法師人社長は「全体の売り上げに占める注文率が8割を超えたため」と解説する。お店では、回転レーンの上をすしがぐるぐると回っている一方で、自分の好きなものを注文して食べるお客がどんどん増えていったことがデータから明らかになっていた。注文率が増えた背景にあるのは「できたてが食べたい」という顧客の心理だと見られていた。
実はすしを回す必要がない?
脱・回転の方針を打ち出す前、店員が忙しすぎて回転レーンに十分な量のすしを流せないことがあった。一方、レーン上のすしが充実していなくても、お客は自分の好きなものを注文して食べており、特に不満を感じてないケースもあった。そこで、実験的にある店舗で「これからすしを回すのをストップしますが、いいですか?」とあらかじめ告知したうえで運営したところ、大きな問題は発生しなかった。法師人社長は「すしを回す必要はないのでは?」と考えるようになっていった。
ただ、回転すしというモデルで成長してきた元気寿司にとって、脱・回転路線に踏み出すことにはためらいもあったという。
元気寿司は2012年7月、東京・渋谷に回らないすしの1号店を実験的にオープンさせた。オープン当初は苦戦したが、徐々に認知されるようになった。また、既存店をまわらないすしに転換したところ、売り上げが平均して20%アップした。この成功に自信を深めた同社は、その後、回らないすしの店舗をどんどん増やしていった。13年に法師人氏が社長に就任してから、元気寿司は回るすしの店舗を1つもオープンしていない。
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