「セブン24時間見直し」の衝撃――ローソン竹増社長に問う“コンビニの持続可能性”:「店舗の平準化」は時代遅れ(3/3 ページ)
コンビニの24時間営業の是非が取り沙汰される中、ローソンの竹増貞信社長が3月7日、ITmedia ビジネスオンラインの単独インタビューに応じた。
無人化は目指さない
――ポイントの2つ目にあげられた効率化についてもお聞きしたいのですが、「無人化」はなかなか難しいのでしょうか。
技術的には難しくないのですが、無人化だけが価値ではないと考えています。私たちは「マチの暮らし」を幸せにしていきたいし、それを企業理念にも掲げています。リアルな店が、その街をいかに幸せにしていけるのかということです。
これまでチェーンストアは、平準化された商品やオペレーションを追求していくことで成長を遂げてきました。「北海道から沖縄まで同じ」を価値にしてきましたが、もう今はそのような時代ではありません。他チェーンも含めコンビニは全国に約5万5000店あります。どの街に行っても同じ店だと面白くないのではないでしょうか。
ローソンは今1万4500店舗あります。どの店も青いローソンの看板を付けてはいますが、その下には「オーナーさんの看板」があっていいのではないかと考えています。オーナーさんの看板とは、地域の代表の顔です。
ローソンの看板を掲げる以上、安全安心は絶対です。「最低限のルールは守ってね。(生活の基盤となる)基本商品はみんな置こう」と。一方それ以外は、オーナーそれぞれがスーパーバイザーと一緒になって、その街を幸せにする店づくりの形を考えることが必要です。
全国一律ではありません。都心のオフィスビルは、無人でいいかもしれないですね。一方で北海道や九州では、ゆったりと時間が流れる中で、常連さんとの会話を楽しむ。常連さんの車が駐車場に入って来るとクルーがコーヒーをいれ始め、常連さんが店内に入ると、コーヒーとたばこをさっと出す、という店もあります。個店の特性をどう出していくかがこれからの勝負だと考えています。
――面白いですね。ただ一般的なチェーンストアの論理とは異なる考え方かと思います。「脱平準化」は効率化に反しないのでしょうか。
効率化がお客さまにとって価値を提供できていた時代はありましたが、今は違うのではないでしょうか。お客さまや街の在り方を見ながら、次の時代の価値を考え、われわれ自身も変化していかないと対応できません。「われわれはローソンです。北海道から沖縄まで、どこに行っても同じです」と言っても、「ああそうですか」となるだけです。
沖縄では地場最大手のスーパー、サンエーとも提携しています。その意味は大きく、沖縄独自のプライベートブランド商品が店に並び、お客さまも「私たちのローソン」と思ってくれます。平準化で発展してきたコンビニに、地域性や店の個性をどう組み込んでいくかが重要だと考えています。
進む「オペレーション改革」
――ローソン本社が入居する(品川区内の)ビルの下の店舗でセルフレジも見学しましたが、今後増やしていくのでしょうか。
下の店は、朝、長い列ができます。レジを担当するクルーを確保する意味で、レジは5台までしか置けません。ただセルフレジを入れれば、有人とセルフ合計で8台は置けるのです。また、スマホレジを使ってもらえばアプリを使って商品バーコードを読み取り、自分のスマホで決済まで完了できます。こういうオフィスビルにある朝昼が忙しい店舗では、セルフレジやスマホレジを増やし、お客さまのストレスを減らしていきたいと思います。
――掃除や品出し、簡単な調理といった作業でも自動化を目指していますね。
床を拭く、トイレを掃除する、唐揚げを揚げるなど、みんなができることは「もっと簡単に」といった要望は、実はなかなか上がってきません。現状で何とかこなせてしまっていますし、しかも日本は、そういう作業を大切にする価値観を持った国だからです。
他方レジは、効率化するほど機能が増え、操作方法が難しくなってしまうという矛盾も抱えています。デジタルネイティブの高校生、大学生には抜群に便利でも、高齢の方には難しい場合もあるのです。もっと使いやすく、という要望に応え、レジ周りの効率化を進めてきましたが、店内の7割の仕事は昭和の時代からほとんど変わっていません。今後はそういう仕事においても効率化を進めたいと考えています。
――今まで人がやっていた「基本の仕事」がデジタル化されたら、クルーは何をするのですか。
無人化がゴールではないと考えています。温かい部分、リアルの店にリアルの人がいる価値、これをしっかり支えていくためにもデジタル化が必要なのです。そうでないと働く人が疲れ、店も疲弊してしまいます。
――平準化から個性重視へ、コンビニのビジネスは分岐点にきているということですね。
コンビニはこれからどれだけ増えるのでしょうか。店舗数はこれまで大きく増え、ローソンも出店を続けていますが、店を減らし始めた競合企業もあり、コンビニ全体としては出店のピッチは緩くなっています。オーナーさんにとっては、(自分の運営する)一店舗が全てです。だからこそ一店舗、一店舗の価値を上げていかなければいけません。デジタル化を進めることで、店舗で働く人に余裕が生まれ、温かい心がお客さまに伝わる。ローソンの看板の下にオーナーの看板があって、オーナーの人柄が「店柄」になっていく。そこに人が集い、コミュニティーが生まれ、“マチの幸せ”につながっていく。それが私たちの目指す次世代型のコンビニです。
最も損をするのは消費者
以上がインタビュー内容だ。要望があれば個別に対応し24時間営業の見直しも辞さないとの竹増社長の発言には、「朗報」と感じる加盟店オーナーも少なくないだろう。店ごとの個性を重視するという方向性も、地域に根差した食品スーパーが数多く成功しているモデルとも合致し興味深い。
では今後の課題はどこにあるだろうか。人手不足やロイヤリティー(加盟店から本部への納付金)、近隣への出店など、コンビニ各社の加盟店オーナーからは、苦境の訴えが止まらない。世耕弘成経済産業大臣が3月1日の会見で言及した「本部と加盟店との間の適切な議論」といったような風通しの改善も急務だ。
「(ローソンが目指す)“マチの幸せ”にはオーナーも含まれる」という竹増社長の発言は重い。利益を追って24時間営業にこだわるあまり、オーナーとその家族が無理な働き方を強いられた結果不幸になってしまったなら、それこそ本末転倒だからだ。そうなればコンビニのビジネスモデル自体の持続可能性が揺らぎかねない。その時に最も損をするのは誰かといえば、ほかならぬ消費者である。
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