タレントの薬物問題に、企業はどう対応すべきか:スピン経済の歩き方(7/7 ページ)
ピエール瀧さんの逮捕を受け、多種多様な企業がその対応に追われている。CMや広告はすべてお蔵入りになったわけだが、役者やアーティストとして関わっている作品まで自粛すべきなのか。この問題に対して、筆者の窪田氏は……。
「寛容さ」という新しい危機管理対応
「覚せい剤やめますか、それとも人間やめますか」というあまりにも有名なキャッチフレーズがあるように、日本では薬物に手を出した時点で、自動的に「人権」が剥奪される。
人権がないので、裁判前の容疑者段階であるにもかかわらず、「人民裁判」で吊し上げられる。もはや人間ではないので、それまで仕事をしていた企業からも石を投げられる。そんな「人でなし」が、どんなに素晴らしい映画に出ていようが、どんなに素晴らしい音楽をつくっていようが、許されるわけがない。だから、本人の権利を無視して、自主回収や公開・販売停止に抵抗なく踏み切ることができるのだ。
このような「クサイものにフタ」が、問題をさらに悪化させることは、日本社会も薄々勘付いてきている。
「バイトテロ」で巨額賠償金を求めても、外食チェーンが低賃金の非正規雇用に依存する限り、同じような問題は繰り返される。コンビニ店長にコワモテで圧力をかけても、「24時間営業」というシステムの維持はできない。個人を必要以上に叩いて、「見せしめ」のような懲罰を与える企業危機管理は、もはや通用しなくなってきているのだ。
この構造的な問題に気付いて、「寛容さ」を打ち出した企業は、新しい危機管理対応を世に示したモデルケースとして高い評価を受けるだろう。影響力のある大企業が動けば、社会のムードは大きく変わる。危機管理担当者は今、こんなことを問われているのではないか。
薬物依存患者を排除し続けますか、それとも社会復帰に手をさしのべますか――。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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