ハマーン・カーンの栄光と凋落に見る組織運営の要諦:元日銀マン・鈴木卓実の「ガンダム経済学」(1/6 ページ)
ネオ・ジオンの若き指導者、ハマーン・カーン。彼女は組織運営にいかに成功し、そして失墜したのか。人口動態やガバナンスの観点から探る。
御家再興、傾いた会社の再建など、いつの世も復活劇にはロマンがある。
高貴な生まれの主人公が家を追われるなどして身を落とすも、艱難(かんなん)辛苦を乗り越えて再び返り咲く貴種流離譚は、古くから日本神話やギリシャ神話など洋の東西を問わず存在する。
強者や運命への反抗や困難に立ち向かう姿そのものが、庶民の琴線に触れるシナリオなのかもしれない。ハッピーエンドは、恐らく必要ないのだろう。尼子家の再興に身命を賭した山中鹿之助や、九度山に流されるも、大坂の陣で活躍した真田幸村の逸話が残っている。
現代でも、“リベンジ”で有名な小説・ドラマが人気を博している。ビジネスの分野なら、企業の「V字回復」を扱った記事などがよく注目を集める。シナリオと煽り口上の相乗効果もあろう。
ガンダムの世界で言えば、ジオン・ダイクンの遺児にしてスペースノイドの自治独立を唱えたシャア・アズナブルはまさに代表的な「貴種」と言える。ただ、今回扱うのはシャアではなく、「Zガンダム」「ZZガンダム」に登場するハマーン・カーンだ。
本稿では、ハマーンの「リベンジ劇」を材料に、経済、ひいては組織の運営について考察したい。
10代でネオ・ジオンを率いる
ハマーンの父マハラジャ・カーンはジオン公国を治めるザビ家に縁のある高官である。平時であれば、ハマーンは令嬢としての生活を送ったのだろうが、一年戦争のジオンの敗北と父の急逝により、激動の生涯を歩むことになる。ジオンの再興を図ったハマーン・カーンによる第一次ネオ・ジオン紛争は、リベンジ劇という視点で捉えることができよう。
ネオ・ジオン(以下、本稿ではハマーン・カーンが率いた組織を指す)は、火星と木星の間の小惑星帯(アステロイドベルト)にある資源衛星アクシズを拠点とした。アクシズは、地球から最も遠いスペースコロニー群・サイド3の管理下にあり、都市機能や工廠を備えていた。食料や生活用品だけではなく、軍需物資も生産できた。
航行が順調でも、地球から数カ月かかる距離にあり、情報も隔絶されているため、地球連邦も軽々に軍を派遣できない場所にある。一年戦争におけるジオン敗残兵が落ち延びるには、かっこうのアジトと言えよう。
まだ赤子であったジオンの姫ミネバ・ザビもアクシズに身を寄せ、当時、アクシズの司令官を務めていたマハラジャ・カーンの保護下に置かれる。そのマハラジャ・カーンの死去により、娘のハマーンはミネバを擁立し、若くして権力の座につく。
10代でアクシズの行政と軍を統括したことを考えると、親の七光りとそしられることもない優秀な人材だったのだろう。ハマーン自らMS(モビルスーツ)を操って陣頭に立つ、パイロットとしての顔も持つ。脳波を利用した無線オールレンジ兵器「ファンネル」を使えるニュータイプでもある。
関連記事
- 「赤い彗星」のシャアはなぜスピード出世できたのか?
ガンダムの世界において、地球連邦軍とジオン軍は、同じ軍隊という組織でありながら、パイロットの評価も昇進の早さもまるで違う。“赤い彗星”の異名を持つジオン軍のエース、シャア・アズナブルはなぜスピード出世できたのだろうか。 - ジオンの国力増強策から我々が学ぶこと
前回に続き、ガンダムの世界に登場するジオン公国とその系譜を題材に「国力」について考察する。まずは、ジオンの資源から見ていこう。 - “冬の時代”から始まった平成アニメ、いかに2兆円産業に飛躍したか
アニメ・映像ジャーナリストの数土氏が平成アニメビジネス史を総括する。冬の時代から今の繁栄にどう至ったのか。 - ジオンとその系譜に見る、「国力」とは何か?
我々はしばしば「国力」という言葉を使う。国力とは、GDPといったフローの経済指標だけでは測れず、保有する資源や資産というストックも含めた、広い概念なのだ。そこで今回は、ガンダム作品の敵役であるジオンとその系譜を題材に、国力について考察する。 - 発売中止の作品まで…… アニメの“円盤”は消滅するのか?
アニメのBlu-rayやDVDの売り上げが減少している。動画配信サービスの普及が要因。ただ配信終了した作品は見れなくなるため揺り戻しの可能性も。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.