バッテリースワップ式EVへの期待と現実:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/4 ページ)
時期はともかく、EVは必ず普及する。ただしそのためにクリアしなくてはいけないのがバッテリーの問題だ。EVの性能を決める心臓部品でもあるバッテリーは、高価な部品である。ではどうやって安いバッテリーで充電の待ち時間を短縮するか? という話になると人気の説の一つが、バッテリースワップ方式。ここに可能性はあるのだろうか?
バッテリースワップ方式の問題点
- バッテリーを規格化するとEVの進歩が止まる
- EVのバッテリー重量は少なくみても300キログラムオーバー
- 高電圧であるため、資格保持者しか扱えない
- 脱着式では接点の防水を完璧に行うのは難しい
- 高額なバッテリーの破損弁済を誰が負担するのか?
さて、問題点を解説していこう。EVの場合、動力性能を決めるのは実はモーターではない。バッテリーの性能だ。だからバッテリーを規格化してしまうと、性能の向上ができなくなる。製品の差別化も難しい。
日産はリーフに大容量バッテリーを搭載した「リーフe+」を発売した。航続距離を40%延長したのみならず、時速80キロから100キロへの加速時間を15%短縮した。電池の性能が動力性能を向上させる最新の例となっている
スマホやデジカメを買い換えた時を思い出せばいい。先代の旧型バッテリーを使えるケースがあるだろうか? まずそんなことはない。場合によっては世代ごとに、遅くても数世代ごとにバッテリーは新型に代わる。ではその世代交代で動作時間が倍になったりするかというと、残念ながらそれほど進歩しない。わずかずつの進歩を各社は必死でやっている。それは現状、バッテリーの性能が顧客の期待値に対して不足していて、アップデートをわずかでもしないでいると競争に置いていかれることを示している。共通規格化して性能を固定できるほどにはまだバッテリーは熟成していないのだ。
重量の問題はどうだろう? バッテリーは難しいもので、容量を半分にしたら半分の時間で充電できるかというとそうはならない。スマホのカタログには「急速充電20分で80%まで」などと書いてあるが、残りの20%の充電にはとても時間がかかる。
バッテリーの容量が大きく、電池残量が少ない時は早く充電できるが、満充電に近づけば近づくほど充電速度は落ちる。コップに水を入れることを想像して欲しい。水量の豊富なデカい口径の蛇口から勢いよく水を注ぐには、デカいコップで、空っぽに近い方が良い。元のコップが小さいとあまり盛大に水量を増やせないし、コップが大きくても、最後まで盛大には注げない。満量に近づくほど水量を絞ってやらないとこぼしてしまう。バッテリーの場合、こぼれることは、最悪、発熱・発火を意味する。水を注ぐより慎重にならざるを得ない。
つまりバッテリーはデカくて(つまり重くて)空っぽであるほど、高速充電できる。逆に言えば、軽量で扱いやすい小型バッテリーにすると充電時間が長くなる。充電をビジネスと考えると遅いのは困る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
明らかにされたマツダのEV計画
ここ数年マツダは内燃機関の重要性を訴えており、SKYACTIV-Xを筆頭とする技術革新を進めてきた。中にはそれをして「マツダはEVに否定的」と捉える層もあるが、実はそうではない。EVの必要性や、今後EVが増えていくということを、マツダは一切否定をしていないのだ。
トヨタとマツダとデンソーのEV計画とは何か?
かねてウワサのあったトヨタの電気自動車(EV)開発の新体制が発表された。トヨタはこれまで数多くの提携を発表し、新たなアライアンスを構築してきた。それらの中で常に入っていた文言が「環境技術」と「先進安全技術」である。
中国製EVに日本市場は席巻されるのか?
「日本車が中国製の電気自動車にやられたりする心配はないの?」。最近何度かそんな質問を受けた。本気でそんな心配している人は本当にいるらしい。
EV普及の鍵、充電規格戦争を制するのはどこか
充電規格の「勝ち組」を採用する自動車メーカーは、安定したサプライチェーンと充実したネットワークを追い風にできるが、「負け組」は研究開発などが徒労に終わるかもしれない。