人手不足は本当に「悪」なのか 騙され続ける日本人:スピン経済の歩き方(2/6 ページ)
人手不足が原因で倒産する企業が増えているようだ。東京商工リサーチのデータをみると、前年度から28.6%も増えて、過去最高を更新している。数字をみると、「人手不足=悪」のように感じるが、本当にそうなのか。筆者の窪田氏は違う見方をしていて……。
「雇用ミスマッチ」が大きな要因
厚生労働省職業安定局の「人手不足の現状把握について」(平成30年6月1日)を見れば明白だが、日本の人手不足は局地的な現象で、建設業、宿泊業・飲食サービス業、医療、福祉、運輸業、郵便業などのいわゆる「人手不足産業」と、そうではない産業に大きな落差がある。
そして、これらの分野別の分析を見ると、人手不足の原因・特徴は「労働者時間が長く、給与水準が低い」(運輸分野)、「休日が少ない」(建設分野)、「賃金が安い」(介護分野・宿泊業、飲食サービス分野)とある。
もうお分かりだろう。人手不足は人口減少うんぬん以前の問題で、過酷な労働条件にもかかわらず低賃金がゆえ働き手から敬遠されるという「雇用ミスマッチ」が大きな要因なのだ。
「雇用ミスマッチがあるのは事実だが、それを悪化させているのは人口減少だ」と食い下がる人手不足業界の方も多いかもしれないが、この問題に人口が減った、増えたが関係ないことは既に歴史が証明している。
例えば、人口が右肩上がりに増えていた1960年代も、日本は「深刻な人手不足」が社会問題になっている。人手不足が原因で中小企業はバタバタと倒れ、1965年の中小企業白書によれば、倒産は4200件にものぼった。
そう聞くと、「人は増えていたけれど、高度経済成長期でそのペースを上回るほどの人手が必要だったんだな」とか思うかもしれないが、この事態を招いたのは「人の数」ではなく「賃金」である。
『大企業 過剰人員整理急ぐ 中小企業 人手不足が深刻化』(読売新聞 1962年6月12日)という当時の新聞記事を見ても分かるように、実はこの時代、大企業の製造業は、臨時工という非正規から正社員にしたものの、事業縮小、集中生産などで人が余ってリストラを敢行していた。
そうやって労働力がちまたに山ほど溢れているにもかかわらず、中小企業は「人手不足」でバタバタと倒産をしていたのである。
中小企業がほしいのは、安い金でコキ使える若者だが、大企業からクビを切られてちまたに溢れているのは、賃金要求の高い中高年。彼らはそもそも重労働・低賃金の「人手不足業界」で働こうというつもりもない。
当時はこれを「中小企業にとっては“見込みなき求人”が激増するという皮肉な現象」(同上)と説明したが、現代でいうところの「雇用ミスマッチ」であることは明らかだ。
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