人手不足は本当に「悪」なのか 騙され続ける日本人:スピン経済の歩き方(4/6 ページ)
人手不足が原因で倒産する企業が増えているようだ。東京商工リサーチのデータをみると、前年度から28.6%も増えて、過去最高を更新している。数字をみると、「人手不足=悪」のように感じるが、本当にそうなのか。筆者の窪田氏は違う見方をしていて……。
「人手不足倒産」を「人口減」とひもづけて語る
このあたりから、信用調査会社のデータをもとに「最近の企業倒産は人手不足と後継者難が目立つ」(日本経済新聞 1989年5月19日)という報道が急増。あれよあれよという間に、「人手不足倒産」とは、業績も良くて利益も出ている優良企業をある日突然襲う不条理な悲劇とされ、「低賃金」と切り離されていくのだ。
もちろん、信用調査機関のデータをうのみにせず、本質を見極めようという人たちも多くいた。例えば、1989年8月23日の日本経済新聞の記事を執筆した記者は、「人手不足倒産ブーム」を以下のように看破している。
『人手不足倒産は、信用調査機関などがつくった今風の「キャッチフレーズ」に過ぎない』
『いま起きている倒産の多くは、人手不足に根本の原因があるわけではない。競争力の衰えた企業が脱落するという、ある意味で健全な構造調整の動きである。企業の盛んな新陳代謝――人手不足倒産の実態は、むしろ今の景気の力強さを物語っている』
個人的には、これほど「人手不足倒産」の本質をついた論評はないと思っている。社会の生産性が向上していく中で、低賃金労働に依存しなければ存続できない企業が淘汰されていくのは、ある意味で当然の「新陳代謝」だからだ。
が、残念ながらこのような考えが世間に定着することはなかった。「人手不足」は「新陳代謝」どころか、「治療しなくてはいけない病」として「賃上げ」を否定する根拠とされ、「失われた20年」を経て、すっかりと日本人の頭に「常識」として刷り込まれてしまう。
次に、「人手不足倒産」という言葉が注目を集めたのは2014年のことである。『1980年代末のバブル経済がもたらした「人手不足倒産」の再来』と報じた当時の日本経済新聞(2014年8月12日)の記事には、こんな表現がなされている。
『真夏の日本を覆う人手不足は、人口減がもたらす成長の足かせか』
人口右肩上がりの高度経済成長期やバブル期に見られていた「人手不足」に、新たな社会不安がひも付けされていく。
本来、「低賃金」などが引き起こした「雇用ミスマッチ」だったのに、いつの間にやらその本質はうやむやにされて、「人口減少」という「人数」の問題にすり替えられてしまうのだ。
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