トヨタ ハイブリッド特許公開の真実:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/5 ページ)
トヨタは、得意とするハイブリッド(HV)技術の特許(2万3740件)を無償で提供する。しかし、なぜ大事な特許を無償公開するのか? トヨタの狙いと、そしてどうしてトヨタが変わらなければいけなかったかと解説する。
欧州委員会の調査でトップを取ったトヨタ
さて、前出の寺師副社長の言葉を借りよう。「去年、欧州委員会がオフィシャルに公表した2017年の自動車メーカー各社のCO2排出量の実績値を見ると、トヨタが一番(CO2排出量が)少なくトップなんです。(中略)他社は現在の規制を示す線ギリギリです。しかも今後この規制がどんどん厳しくなっていきます。(中略)これが何を示しているか。結構思い切って言っちゃうと、EVを持っている会社の達成率はいいわけではないってことですよね」
つまり現状で1台もEVを売っていないトヨタが、欧州委員会の環境評価No1.を獲得しており、いうまでもなくその原動力はHVなのだ。
しかし、温暖化ガス規制は今後どんどん強化される。トヨタ自身の読みでは、やがてHVでは規制がクリアできなくなる。そこに到達するのは30年だ。そこから40年まではプラグイン・ハイブリッド(PHV)が主流になる。
PHVは簡単にいえばバッテリー容量を増やしたHVだ。さらにバッテリーにはEV同様コンセントから充電が可能だ。例えば1週間の中で、平日は30キロメートル以下の通勤距離だとすれば、家庭で充電したバッテリーの電力だけで走行できてしまう。休日に遠出する時だけは、バッテリーを使い切ってからエンジンを使ってHVとして走る。するともうこれは現実的にはほぼEVだといえる。
今後バッテリーが進化して、安価で軽量かつエネルギー容量が上がれば、EVの時代は必ずやってくる。長期で見ればそれは確実だ。だが今すぐは無理だ。ユーザーが買ってくれないのではどうしようもない。しかし、だからといってそれまで環境問題を放置できない以上、顧客に支持されているHVと、あと少しでそこへ持っていけそうなPHVでこの20年間を乗り切るしかない。それが現実的回答だ。
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