「変」の哲学で成長 名古屋発「世界の山ちゃん」の絶妙な名付けと看板の戦略:長浜淳之介のトレンドアンテナ:(5/6 ページ)
名古屋生まれの居酒屋チェーン「世界の山ちゃん」。屋号だけでなく「幻の手羽先」や「鳥男」の看板などもユニーク。飛躍した背景にある「変」の哲学とは?
効率化とドミナント戦略
世界の山ちゃんの経営の特徴として、「変」の哲学は確固としてあるのだが、効率性の追求も見逃せない。
山本氏の創業店は、1人で切り盛りするような小さな店だった。工程を省くためにこしょうなどのスパイスは最初に全部ブレンドし、手羽先の先っちょも他店のようにカットせずそのまま揚げている。それが今は、この店の個性となっている。
また、世界の山ちゃんの鳥男が入ったデカデカと掲げられる看板は視認性が高く、名古屋に行くとどこにでもあるような錯覚を抱かせる。しかし、実際は栄・錦、名駅、金山の3地区に集中しており、名古屋市外で愛知県内にある居酒屋店舗は岡崎市に1店あるのみだ。名古屋ではこれら3地区に人の流れが集中しているので、ドミナント戦略を取っているのだ。
「看板はできるだけ大きく、ビルの1つの階を占めるくらいの大きさであったり、壁一面に鳥男のイラストが描いてあったりと、自由に表現しています」(エスワイフード経営支援本部本部長・総務部部長、潟見正志氏)。
重視する「名古屋感」
世界の山ちゃんが重視するのは、「安心感」「スピード感」「お得感」「特別感」「名古屋感」。最初の4つは店舗ビジネスの基本のようなものなので納得するが、名古屋感の重視は名古屋発祥企業の矜持(きょうじ)だろう。
メニューでは、特に名古屋色を鮮明にしており、手羽先の他にも、みそ串カツ、どて煮、みそ味もつ鍋、みそとんかつ、海老天むす、名古屋コーチン入り鶏団子南蛮、あんかけスパゲティ、鉄板ナポリタン、台湾もつ鍋、台湾やきそば、台湾ラーメンの具(台湾ラーメンの具だけをメニュー化した商品)、などといった名古屋メシが味わえる。
創業者の山本氏は16年に急逝したが、2代目社長に細君の久美氏が就任している。山本氏の築いた「変」の精神は、どうすれば顧客にもっともっと楽しんでもらえるのかを追求した結果生まれた。台湾ラーメンの具をメニューにして出していることや、最新の新業態の店名「世界のやむちゃん」からも、2代目になってもエスワイフードは不変に「変」であり続けていることが分かる。それが企業発展の礎となっているといえるだろう。
関連記事
- なぜ「スガキヤ」は中京圏で繁栄した? 「だし」の哲学と強固なビジネスモデル
中京圏で熱烈に愛される「スガキヤ」。ラーメンとソフトクリームの2枚看板で成長してきた。地元で熱烈に支持される理由とは? - 「大阪王将」に後れを取っていた「餃子の王将」の業績が復活したワケ
「餃子の王将」を運営する王将フードサービスが復活しつつある。女性向けの新業態店や安価で量を減らしたメニュー開発が奏功したが、本質的な理由はほかにもあるという。どのような戦略を打ち出しているのだろうか。 - レゴランドってそんなにひどいの? 家族を連れて行ってみた
「隣接する商業施設からテナントが撤退」「水筒の持ち込み禁止」などのニュースで注目を浴びているレゴランド。ネット上では酷評する声もあるが、実際はどうなのだろうか。記者が家族を連れて遊びに行ってみた。 - 昭和生まれの「ランチパック」が平成になってから“大化け”した理由
山崎製パンのランチパックは昭和に生まれた。当初は単なる菓子パンのラインアップの1つにすぎなかったが、平成になって大化けした理由とは? - ライバルと明暗 栄華を誇った「小僧寿し」だけが大きく苦戦した理由
かつて2300店超を誇った「小僧寿し」だが、近年は回転すしや持ち帰りすしチェーンの猛追で苦戦していた。同じ持ち帰りのチェーンが踏みとどまってるのになぜ小僧寿しだけ苦戦しているのか。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.