ダークプールを活用 STREAMが株取引手数料ゼロを実現できる理由:株式取引、手数料無料がトレンド(2/2 ページ)
ネット証券の登場から約20年がたち、スマホファーストを打ち出す証券会社が続々登場。スマホをメインとするSTREAMは、株式売買および信用取引の手数料無料をうたう。従来のネット証券と、新しいスマホ中心の証券会社はどこが違うのか?
手数料無料で収益源はどこに?
ではSTREAMはどのようにして手数料無料を実現したのか。そこには、昨今存在感が増してきている「ダークプール」の活用がある。
一般に、株式取引は東京証券取引所が提供するシステムを使い、ユーザー同士が取引を行う。そのほかに、PTSと呼ばれる私設の取引所もあり、夜間の取引などに活用されている。これらとは別に、東証などの取引所を介さず、証券会社が投資家同士の注文をマッチングする取引がダークプールだ。
ゴールドマン・サックスや野村證券、大和証券などが提供しており、日本全体の株式取引の5〜10%程度がダークプールで取引されているとみられる。企業の創業者などの大株主が大量に株式を売却する場合など、東証を通すと大きく株価に影響してしまう。そんな場合に、ダークプールを利用することで、安定した株価での取引を実現する。
本来は機関投資家が利用していたダークプールだが、昨今、一般投資家向けにもダークプールでの売買を可能にする証券会社が増加してきている。SBI証券のほか、みずほ証券、松井証券、カブドットコム証券などだ。STREAMが手数料無料を実現できる理由も、ダークプールの利用にある。
「ユーザーからの注文を、東証とダークプールの両方に出し、有利な価格のほうで約定させる。ダークプールでは思ったより安く買える場合があるので、そのときだけ、差額の半分を当社の報酬としてもらう形」(林氏)
もしダークプール側で500円安く約定した場合は、そのうちの半分の250円を手数料とするモデルだ。東証側で約定した場合は手数料を取らない。売った場合も、ダークプール側で高く約定した場合は同様となる。
PTSへの接続は行わないが、すべての注文をダークプールにも流している。注文のうち、どの程度がダークプール側で約定しているかは非公開だが、一定のボリュームに達しているようだ。
そのほかに、信用取引の金利コストも同社の収入源だ。信用取引にかかる買方金利は、STREAM内のコミュニティでの活動に連動して下がる仕組みになっている。基本は3.49%だが、最大では1.89%まで優遇になる。STREAMアプリ内にあるコミュニティは1日1000件以上もの活発なやりとりがされており、コミュニティを通じたエンゲージメントがもう一つの特徴だ。
現在は2種類あるうちの「制度信用」に対応しているが、今後「一般信用」取引も提供する予定だ。
さらに、STREAMで使っている証券システムをパッケージにし、「BaaS(Brokerage as a Service)」という名称で、プラットフォームとして他社に提供することも進めている。
光があたってきたダークプール
日本では東証が現物株の取引をほぼ独占している。しかし、投資家がより有利な価格での取引を目指す中、ダークプールが注目されている。「東証だけだと、競争原理が働かない」と林氏。
一方で、さまざまな規制がかかる取引所に比べ、ダークプールには現状情報開示義務もなく、投資家保護の観点で課題もある。金融庁では、すでにダークプールの規制を進める議論も始まっている。
「本来、ダークプールの個人投資家へのアクセス開放は、最良執行(顧客にとって最良の条件での取引執行)の文脈で考えるべきもの。取引所やPTSと比較し、同等または顧客に有利な約定になるのが前提だ。ダークプールをあまりに厳しく規制してしまえば、流動性を含む最良執行の機会を失うため、その存在意義を失ってしまう。金融庁の意図は、やみくもに規制するというよりは、適切に管理し、個人投資家が不利にならないように、ダークプールを有効活用し得るようにする、ということだと理解している」(スマートプラスの下田暁取締役)
その上で、STREAMでは投資家保護のための取り組みも進めているという。
「万が一、約定価格データと最良執行価格に開きがある場合は、速やかに約定訂正を実施する仕組みと態勢を構築している。併せて、投資家からの問い合わせがあれば、データを開示し、最良執行がなされていることを説明できるよう、常に備えている」(下田氏)
【訂正:2019年4月24日午後4時 初出でSTREAMの設立を「6年前」と記載しましたが、正しくは「2年前」です】
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