デジタル化は漫画家のワークスタイルをどう変えたか――連載作家が語る漫画制作の今:「AIの遺電子」作者に聞く(4/4 ページ)
テレワーク、コラボツール、クラウド、そしてワーケーション……漫画制作現場で起きている新しい働き方をプロ漫画家に聞いた。
漫画を作る「チーム」の将来像
デジタル化はテレワークを可能にするだけでなく、効率化にも一役買っています。先述したベタ塗りやトーン貼りといった作業は、紙の原稿ではある程度手間のかかる作業でしたが、デジタルではクリック操作で簡単にできます。手間と技術が求められるスクリーントーンの「削り」といった作業も、専用のデジタルブラシを使うと短時間で完成します。
身の回りの漫画家を見ていると、漫画のペン入れ(絵を清書する作業)まではアナログでやっていても、ベタやトーンはデジタル、という作家が多いです。最近、スクリーントーン制作会社の1社が破産するといったニュースもありましたが、デジタル化が進行していることの証左ではないかと思います。
ちなみに、私は人工知能が登場するSF漫画を描いた関係で、AIの動向にも日々興味を持っているのですが、まだまだ完成度は低いものの、絵の自動彩色などが可能な世の中になってきています。将来的には、こうした自動化が漫画制作をより効率化してくれるかもしれません。
漫画家をとりまく環境はこの10年でいろいろと変わってきました。デジタルの浸透はもちろん、SNSの普及により漫画家自らが宣伝漫画を投稿するといったセルフブランディングが頻繁に行われるようになりました。
出版社がWeb雑誌を創刊したり、漫画投稿サイトを運営したりしている一方で、Amazonの「Kindle Direct Publishing(KDP)」といった個人が出版社を介さず漫画を出版するサービスも整ってきました。韓国で人気のスクロール漫画など、漫画の体裁そのものをリフレッシュするようなムーブメントも存在します。
ちなみに、私も先述のとよ田さんも、KDPで作品を配信しています。紙の本のように部数に応じた印税がドカッと入ってくるわけではなく、売れた分だけチャリンチャリンと積みあがっていくのですが、1日何冊売れたかといった販売データが簡単に確認でき、自分の宣伝行為やキャンペーンがどの程度販売に結び付いたかが分かります。
私の場合、ある日突然売り上げが跳ね上がり、調べてみると匿名掲示板で自分の漫画が紹介され、それがいろんなまとめサイトにも転載されていた、なんてことがありました。出版社を挟むと細かい販売データは分からない(会社によるかもしれません)ので、こうした「何が起き、なぜ売れたのか」みたいな情報は、KDPのほうがよく分かると感じています。
雑誌で連載を獲得し、出版社を介して単行本を出す――こうした昔からのワークスタイルは、週刊なり月刊なりの定期的な締め切りに向け、アシスタントの力を借りながら漫画を作るというスタイルを漫画家に定着させました。現在は、必ずしもこのスタイルにとらわれる必要はありません。自分のペースで漫画を描き、KDPなどの配信プラットフォームを使って販売する、なんてことも、簡単にできる時代になっています。
出版社と違ってプラットフォーム企業は原稿料を出しませんので、本業として考えればリスクは大きいのですが、例えば出版社とも仕事をしつつ、自費の電子出版をするといった「二足の草鞋」スタイルも考えられますし、他業種の方が副業で漫画を配信することもできます。技術の発展で制作のスマート化が進めば、より簡単に自分のイメージを具現化できるようになるかもしれません。
こうした時代の変化を感じながら、働き方を模索している漫画家もいる。それが2019年の漫画業界だと思います。
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