「ANAの巨大旅客機投入」でハワイに若者を呼び込めるか:JALの牙城だった「憧れのリゾート地」(1/2 ページ)
ANAが一度に520人を運べる大型機「エアバスA380」を5月24日からハワイ路線に就航させるため、日本人観光客が増えることが予想される――。
世界で最も人気のある観光リゾート地のハワイが盛り上がっている。ANAが一度に520人を運べる大型機のエアバスA380を5月24日からハワイ路線に就航させるためで、日本人観光客が大幅に増えることが予想される。ハワイは以前から日本人が最も行きたいリゾート地の1つとして根強い人気があるだけに、夏本番を前に早くもヒートアップしてきている。
相乗効果を見込む
年間で150万〜160万人の日本人が訪れるハワイはかつて、誰もが憧れていた。これまでハワイ路線はJALが年間約50万人を送り込み、30%近いナンバーワンのシェアを維持し、利益率の高い路線だった。一方、ANAは大型機の就航で「多くの日本人旅行客を大量に運べるので、ハワイの観光需要を拡大できる相乗効果が見込める」としており、新規需要の底上げを狙う。
米ハワイ州観光局によると、ハワイを訪れた日本人が最も多かったのは1997年の221万6890人で、その後はジリ貧傾向となり、リーマンショック後の2009年はピーク時の半分に相当する116万8080人まで落ち込んだ。11年ごろから増加に転じてはいるが、伸び悩んでいると見ることもできる。18年は前年より約1万6000人減の157万1298人だった。
これを穴埋めしているのが、中国人をはじめとしたアジアからの旅行客の増加だ。中国人の旅行者数は年間15万〜16万人で日本人の10分の1の数だが、1人当たりの消費額は日本人の1.5倍ともいわれ、中国人は日本人に代わる「お金払いの良い」新しい得意先になりつつあるという。このため、ホテルでは日本語が話せるフロント係を置いていたのを、中国語が話せるスタッフに変更したところも出ているという。
同観光局は「日本の航空会社の供給座席数は、19年1月の時点では週当たり3万9204席あったが、ANAのA380型機の投入(成田−ホノルル線)で増加する一方、関西や福岡での減便、運休などがあるため、同年7月以降は微減の3万8061席となる見込み。発着地が東京(羽田・成田)へ集中する傾向が強まるため、成田・羽田へのフライトが飛ぶ地方での新しい旅行プランや、チャーター便の誘致を強化していくなど、オールジャパンでハワイを活性化したい」とコメント、日本人観光客が増えることへの期待感が強い。
25%のシェア狙う
ANAは現在、ハワイ路線は成田―ホノルル便が毎日2便、羽田―ホノルル路線が1便の計3便を就航させている。5月24日からは成田からの1便をA380に切り替えて(週3往復)、7月1日からはA380を2機投入(週10往復)し、20年までには3機体制にする計画だ。いまはハワイ路線のシェアは約15%だが、3機体制となった時にはシェアは少なくとも25%(年間輸送客数約160万人)は取りたいとしており、ハワイ路線のANAとJALの競争はいやが上にも激化する。
A380は座席数多く取れるため、ファーストクラスからエコノミーまで幅広い客層の需要に応えられる席を提供できる。ANAは大型機投入を機にホノルル線のサービスを全面的に刷新するなど、力が入っている。日本の航空会社として初めての導入となるのがカウチシートと呼ばれる座席で、32インチ(約81センチ)のシートピッチがあり、3席か4席のレッグレストを上げることにより、ベッドのようにして利用でき、横になって休める。
スタイリッシュな旅を提供
ANAの大型機就航を迎え撃つ形になるJALは3月に新しいプランを発表、ハワイで65年間、日本人観光客を相手にビジネスをしてきた航空会社としては負けられない姿勢をみせている。その基本コンセプトになるのは、「Style yourself」(もっと自分のスタイルで思いのままに)で、旅行の多様化、個別化に対応したものだ。自然、暮らし、健康、働き方の変化などを意識して、これまでのものより一歩先の旅を提案しているのが特徴。
例えば、出張の際に休みを付ける「ブリージャー」という商品を提案した。いままでは、出張の前後に休みを付けることなどは会社の規定で許されなかったが、JALでは「これからはビジネス(出張)とレジャー(観光)を一緒にしたブリージャーという考え方も重要だ」としてビジネスとレジャーを合体させた造語商品「ブリージャー」をハワイ旅行向けに作った。仕事(ワーク)と休み(バケーション)を一緒に取る「ワーケーション」向けの商品も出している。これは、働き方を変えていこうという「働き方改革」の流れにも呼応したもので、旅行商品にもその考え方を取り入れようとしている。
東京以外からでは、名古屋、大阪からのハワイ路線を持っているほか、コナ(ハワイ島)便も飛ばしている。またハワイ航空と提携しているため、ハワイ諸島内の移動が便利にできる強みがある。
マイレージの活用もこれまで以上に弾力的な運用を考えており、いままでは利用できなかった時期でも、マイルを積み増して提供すればマイレージが使えるようにするなど、マイレージの利用範囲を拡大する。また家族やグループによる滞在型の旅行も増えることから、8泊以上長期滞在で利用できるお得な運賃や、5泊以上から利用できる特典付きパッケージ商品など多様な旅行スタイルに即したプランを提供することで、日本人客を囲い込もうとしている。
カギ握る若者対策
問題なのが、ハワイ路線はこれまでどちらかというと、ほかのリゾートと比較して運賃が高く、滞在費も掛かることから、富裕層には好まれてリピーターは多かったが、新規に訪れる客が伸び悩んできたことだ。特に若者層には、「ハワイ旅行イコール割高」というイメージから、敬遠される傾向があった。このため、航空各社は若者にどうすればハワイに魅力を持ってもらえるか知恵を出してきた。若者に興味を持ってもらえば、シニアの世代まで何度もハワイに来てもらえる可能性があるからだ。
10年以上前は団体旅行の形での観光客が多かったが、いまはグループやカップル、個人旅行の比率が高く、それぞれの目的に合ったプランが求められている。「私だけ、われわれだけのレジャー、楽しみ」を欲しがる時代のため、個性ある旅のプランニングにより、ハワイ旅行に魅力を持たせることが重要になる。さらに今の時代はスマホによるSNSなどを使って、流行が口コミで広がるため、イベント、話題などをSNSで若者層に広く流すことも考えている。
若者を呼び込むためには、決め手となるのは運賃。割高だといわれてきたハワイ路線のイメージを変えようと、両社は新しいお得なエコノミークラス料金も出すことにしている。全日空は、いままで7万5000円だったものを5万5000円にまで下げた料金プランを提供。一方のJALは2月のシーズンオフには、席数限定となるが、5万円台の運賃も設定するという。
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