正義の心で怒る人たちは、なぜ幸せになれないのか:Books&Apps(3/3 ページ)
怒りの感情は扱うのがとても難しい。怒りに飲み込まれ、怒りの狂信者とならないために私たちがすべきこととは?
不平不満を嘆いても世の中は変わらないけど、適応すれば世界は変わる
例えば、かつて榎本さんは、顧客から電話口で突然怒鳴られると、頭がフリーズし、固まってしまいがちであったのだという。
普通に考えれば、そこで「もう嫌だ」と思考停止してしまいそうだが、榎本さんは「そもそも何で固まってしまうのだろうか?」と疑問を深め、何とその原因を探しに図書館へ出掛けるのである。
そこで、とある本に
「そもそも私達が怒鳴られると固まるのは、動物としての本能らしい」
「動物の世界では、ほとんどの捕食者が動くものを標的に狙ってくる」
「だから人間も動物として危機を感じると固まるようにできている」
という文章が書かれているのを見つけ出し
「本能には勝てんわ〜」
と図書館で落胆したのだという。
こんなことを図書館で調べてる時点で、僕から見ればすごいとしかいいようがないのだが、ここからさらに榎本さんは、この本能に打ち勝つために
「怒鳴られてビクッと身体が固まったら、その瞬間思いっきり足をつねって痛みを身体に感じさせる事で金縛りが解ける」
という手法を見つけ出すことに成功する。
こう、文章で書くと、たいしたことがなさそうにみえるけれど、これを自分で試行錯誤して見つけ出すのははっきり言って並大抵のことではない。
ここまで読んでくれた読者の方々の中で「怒鳴られたら足をつねればいい」なんてことを知ってた人は数人もいないだろうし、それを自力で見つけ出せる人なんてもっと少ないだろう。
客に怒鳴られるのが「ひどい」と嘆くことは誰にでもできる。しかし、それでは世の中は変わらない。
その代りに、怒鳴られたら足をつねって金縛りを解いて反撃すれば、怒鳴った側がしてやられることは多々あるだろう。
どんな不条理なことでも、自分が変われば世界は変えられるのだ。
他にも本書には奇想天外な発想がものすごくたくさん出てくる。
例えば、とあるオペレーターは顧客からひどい罵詈雑言を受けたら、それを全てExcelに項目別で蓄積していたのだという。
こうすることで、今まで怖くて仕方がなかった客のひどいクレームも、意外と種類が少ないことに気がき、「あ、また、このお約束の型ね」と軽く受け流せるようになったのだという。
それどころか、さらにグラフ化することで、特定のクレームの件数が伸びるのを見るのが面白くなったというから驚きである。
恐怖とは、未知なるものに感じるから怖いのである。
まんじゅうこわいじゃないけれど、それこそ全て既知のパターンに集約させてしまえば、クレームも「ネタバレありのホラー映画程度のものになる」というのである。
これもまさに、生きた環境で生まれた、驚異の発想であるといえよう。
このように、いくら督促OLという感情労働の極地といえるような仕事でも、適応できる人は存在するのである。
もちろん、向き不向きはあるだろうし、全員が全員ここまでのプロフェッショナルになれるとは思わない。
ただ、榎本さんが仮に「こんな社会はクソだ!」と怒りに飲まれたとしたら、彼女が職場に適応できた可能性はなかっただろうし、この督促OL修行日記という名著が世に出された可能性も0%だっただろう。
本書を読むことで、読者の方々にもぜひとも「他人を変えるより、自分を変えるほうがはるかに生産的である」ということの意味をかみ締めてほしい。
もちろん、改善できない時もあるだろう。もしそうなったら、今度は自分の力でスタコラサッサと逃げればいいのである。
怒りに飲まれ、正義の感情の名のもとに内情を告発するなどして相手と戦っても、多くの場合においていいことなんて一つもない。
くれぐれも怒りに我を忘れて、狂信者にだけはなってはならない。人生は有限なのだ。
あなたが生きやすい場所で、楽しく生きるのが一番である。
高須賀プロフィール
都内で勤務医としてまったり生活中。
趣味はおいしいレストラン開拓とワインと読書です。
twitter:takasuka_toki ブログ→ 珈琲をゴクゴク呑むように
noteで食事に関するコラム執筆と人生相談もやってます→ https://note.mu/takasuka_toki
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