なぜ、「日本的人事戦略」は機能しなくなったのか?:「終身雇用」「年功序列」終焉の理由に迫る(2/4 ページ)
年功序列、終身雇用といった“日本的人事”戦略が崩壊し始めている。なぜ今、これまでのやり方が否定されているのか――。その理由を探った。
5. 「全員で頑張る」から「エース次第」へ
上記はITエンジニアリングそのもの話だが、実はエンジニアだけでなく、ITを使った企画やマーケティングも同じ構図になっていった。つまり、「ハイパフォーマーのスーパーな仕事こそが利益の源泉」という時代だ。一人ひとりの営業がコツコツ売って数字を作るよりも、優秀な一人のマーケターの仕事が大きなインパクトをもたらす。
こうして高度成長期が終わったことに加えてITが重要な世の中になり、「各戦場でみんなが頑張る」とか「全員で頑張れば利益はついてくる」から、「エースの活躍次第」という色合いがますます強くなっていった。
昔から「組織の利益の8割は2割の人材がもたらす」なんていうけれども、今ではもっと極端になったように思える。「利益の95%は5%の人材がもたらす」くらいか?
6. 優秀な人こそ外資(能力主義の会社)へ
これまで述べてきた、
- 外資の存在感アップ
- 中途採用市場が活況になり人材流動化
- エース次第のビジネスへ
という条件がそろった結果、起きたことは、「高待遇で外資に転職する人の増加」だった。しかも、どちらかというと優秀な人ほど、外資に流れる傾向があったように思う。
※外資系的な人事政策は、ベンチャーなど一部の日本企業でも採用されている。この記事では「外資vs日本企業」というよりも「外資系的な能力主義vs日本企業的な年功序列主義」を論じたいので、以下、外資的な人事制度を便宜上「能力主義」と呼ぶ
エースの確保がビジネスのCSF(Critical Success Factor:主要成功要因)なのだから、「そのために必要なコストは払う」というのが、能力主義の企業が当たり前に考えていたことだ。
僕も1996年に就職活動した時、ある外資系IT企業の人に「給与はどうやって決めるんですか?」と聞いたら、「市場価格です」と即答された。相手はまだ新卒入社2年目くらいの人だったが、そういう考えが浸透しているようだった。僕は経済学部だったので、「そう言われれば当たり前だよな」と、むしろ聞いた自分が恥ずかしくなったが、これは当時の日本企業の常識からは懸け離れた回答だった。
この状態(ごく一部の企業だけが能力主義を採用している)は、能力主義の会社には誠においしい状況だった。日本企業がみっちり基礎訓練をしてくれた28〜33歳くらいの人材のうち、優秀な層だけを選択的に効率よく採用できたのだから。産業のエスタブリッシュメントである日本大企業に、ベンチャーや外資系企業が食い込むのは本来難しい。だが、この構図はそれを確実に後押ししていた。
7. 2000年代の転職に対する一般的な風潮
僕が転職活動の末、外資系コンサルティング企業で働き始めた2000年ごろに、「もしかしてこうなっているのかも?」と、これまで述べたような構図に気づいた。
僕はSE(システムエンジニア)だったので、大企業で実際に稼働している基幹系システムに触れ、それを作ってきた情報システム部門の大ベテランたちを尊敬していた。だが、そういった優秀な方々は今後、大企業の情シスに残るのではなく、徐々にプロフェッショナル職として社外に流出していくのでは……とも思っていた。
だが、当時はまだ日本企業では「転職するのはドロップアウト」という風潮が一般的な価値観だった。例えば僕は、新卒入社3年半たった2000年1月に外資企業であるケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズに転職した。このころ、それほど親しくない人に「ポジティブな転職ですよ」と言ったら驚かれたのを覚えている。「そんなノリで転職するなんて……新人類だ」的な受け取られ方だった。
今から考えると、そのような「転職はイレギュラーかつネガティブ」という考えは、80年代の経営環境で作られた価値観の名残りにすぎなかったのだが。
少し生々しい話をすると、当時は外資に転職していく同僚に対して「あいつにこの年俸提示? 高すぎない?」みたいな反応もあった。
実際にはそういう人は、転職前には“稼がない高給おっさんの食い扶持(ぶち)”まで稼いでいた。年功序列とはそれをヨシとする制度なのだから当然だ。だから個人としては転職後の方が適正な(実力に即した)価値だったのだろう。
例えば僕でいうと、転職で年俸が1.7倍程度になった(転職前の年棒の記憶が曖昧なのでザックリだが)。前職でも年間1億弱の売上を作っていたので、それくらいの価値は十分あったはずだが、年功序列の人事制度の中ではそんなに待遇が良くなるわけはない。特に僕の場合は、前職の上司たちから「なぜこいつがお客さんに評価され、売上を作れるのか?」を全く理解してもらっていなかったので、なおさらだ。
これこそが、年功序列と市場価格のギャップである。
若手でそこそこのハイパフォーマーであれば、こういったギャップは必ずある。もちろん育ててもらった恩もあるので、ある程度は当然なのだが。
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