「好きな日に働き、嫌いな仕事はやらなくていい」――“自由すぎるエビ工場”が破綻しない理由:本気で社員を幸せにする会社(1/3 ページ)
「好きな日に連絡なしで出勤・欠勤できる」「嫌いな作業はやらなくてよい」――工場のパート従業員にそんなユニークなルールを導入したところ、働く人の熟練度や連携が向上し、仕事の効率や品質が向上、採用や教育のコスト低減も実現したというパプアニューギニア海産。その秘訣とは?
大阪のパプアニューギニア海産は、南太平洋のパプアニューギニアから輸入した天然エビを、工場でむきエビやエビフライなどに加工して販売する会社です。
2016年の夏、工場長の武藤北斗さんによる朝日新聞への投書が話題になりました。「『好き』を尊重して働きやすく」と題したその文章には、工場のパート従業員が「好きな日に連絡なしで出勤・欠勤できる」「嫌いな作業はやらなくてよい」という制度を導入し、働きやすい職場づくりに取り組んでいること、その結果、効率も品質も向上していることがつづられています。
はじめはインターネット上で話題になり、その結果、同社の工場のユニークな取り組みがテレビにも何度も取り上げられ、武藤さんは『生きる職場 小さなエビ工場の人を縛らない働き方』(2017年 イースト・プレス)という本も著しました。
「好きな日に連絡なしで出勤・欠勤できる」「嫌いな作業はやらなくてよい」と言われても、たいていの方は「え? どういうこと?」という反応をされるでしょう。この2つの取り組みは、それくらい、私たちが仕事をする上で当たり前だと思っていることと懸け離れています。
本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本
本記事は、やつづかえり氏の著書『本気で社員を幸せにする会社 「あたらしい働き方」12のお手本』(日本実業出版社)から抜粋、再編集したものです。
事前連絡なしに好きな日に出勤できる「フリースケジュール」制
パート従業員というのは、「パートタイムで働く従業員」のことですから、働く曜日や時間について、雇う側と雇われる側であらかじめ合意しているのが通常でしょう。人手不足に悩む飲食店などでは、パートやアルバイトの希望と店の必要人員とを照らし合わせて、誰がいつ働くかを決める、いわゆる“シフト調整”に大変苦労しているという話をよく聞きます。
ところが、パプアニューギニア海産の工場では、誰がいつ働くかをあらかじめ決めることをしません。彼らは、それを「フリースケジュール」と呼んでいますが、つまり、その日になってみないと誰が来るかは分からないということです。パート従業員が一人も出勤しない可能性もあります。
最近では、出勤する日だけではなく、出退勤時間も、いつ休憩を取るかも自由になりました。もちろん、工場を操業している時間内(月曜から金曜の8時30分〜17時)で、という制限はありますが、極端な話、毎日フルタイムで働いても、月に1回数時間だけ働いても構わないのです。
この制度を導入するに当たり、武藤さんは、「出勤、欠勤の事前連絡は禁止です」と“口をすっぱくして”伝えたそうです。それは、そもそもこの制度がパート従業員の多くを占める「働くお母さん」たちにとって働きやすい職場に、という意図をもって導入されたものだからです。
子どもが熱を出したり学校の用事があったりで急に休まなければいけないことが多々ある彼女たちにとって、いちいち欠勤の連絡をいれなければいけないことは大きなストレスになるだろう、いつでも気兼ねなく休めるにはどうしたらよいか、と考えた結果としての「フリースケジュール」なのです。
好きに休める制度があっても、気を遣って事前に連絡をするようになっては、ストレスはなくなりません。だから、出勤や欠勤に関する事前連絡を「しなくてよい」ではなく、「してはいけない」ということで徹底しているのです。
嫌いな作業はやらなくていい
同工場では、2カ月に1度ほど、全パート従業員を対象に各作業の好き嫌いを問うアンケートを行い、「嫌い」と答えた作業は、以降やらないでいいというルールがあります。
工場で行われる作業は、エビの殻をむく、背ワタを抜く、パン粉を付けるといった原料を扱うものから、工場の掃除まで、30項目以上に及びます。アンケートでは、各作業に対する「◎(特に好き)」「◯(好き)」「×(嫌い)」「無印(どちらでもない)」という気持ちを確認し、結果を一覧表にして全員に共有しています。
なお、各作業に特別高度な技術を要するものはなく、パートとして入って1〜2週間やれば覚えられるものだそう。「できる・できない」や「得意・苦手」ではなく、一応全部できるという前提の上で、「好き・嫌い」という「気持ち」を表明するという点がポイントです。
「フリースケジュール」と同様、これも「どうしたら気持ちよく働いてもらえるか」を考えて導入されたルールで、嫌いな作業をやらなければいけないというストレスから解放され、好きなことに集中してほしい、という意図があります。このルールが最大限効果を発揮するためには、「嫌いでも、やらなければ申し訳ない」といった遠慮や気遣いが起きないようにする必要があります。そのため、嫌いな作業を「やらなくてもよい」ではなく「やってはいけない」という原則を徹底しているのだそうです。
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