日清食品HDの知られざる「IT革命」とは? 変革の立役者に直撃:武闘派CIOに聞く、令和ニッポンの働き方改革【前編】(1/4 ページ)
40年間使い続けた古いシステムを撤廃、ビジネスの課題を解決できるIT部門へ――。そんな大きな変革プロジェクトでIT賞を受賞したのが日清食品ホールディングスだ。2013年、CIO(chief information officer)に就任した喜多羅滋夫氏は、どんな方法で昔ながらのIT部門を“戦う集団”に変えたのか。プロジェクトの舞台裏に迫った。
誕生から60周年を迎えた「チキンラーメン」の年間売り上げが過去最高を記録し、主力製品の「カップヌードル」の販売も好調に推移。2018年にはNHKの連続テレビ小説で創業者、安藤百福氏の妻、仁子さんがモデルになるなど、とかく話題に事欠かないのが日清食品ホールディングス(以下、日清食品HD)だ。
そんな同社が実は、IT関連の取り組みでも注目されているのをご存じだろうか。その立役者が同社でCIO(Chief Information Officer:ITとビジネスをつなぐ役割を担う情報システム部門担当役員の名称)を務める喜多羅滋夫氏だ。
同氏はP&G、フィリップ モリス ジャパンの情報システム部門を経て、2013年に日清食品HD初のCIOに就任。以降、IT部門のマインドチェンジを図るとともに、長年使ってきた古いシステムを刷新するプロジェクトに取り組んだ。2015年に基幹システムとして独SAP製ERP製品(迅速な経営判断をするのに必要な情報を集約し、分析するためのソフトウェアパッケージ)を導入し、2017年にはメインフレーム(基幹業務用の大型コンピュータ)の撤廃を果たした。
2013年の就任から6年、喜多羅氏はどんな方法でIT部門を変え、古いシステムの刷新に取り組んできたのか。そして、これから同社のIT部門をどう変えていこうとしているのか――。6年間の歩みと今後のビジョンを聞いた。
“変わりたいけど変われなかったIT部門”のパッションを解き放つ
――(聞き手:編集部 後藤祥子) 13年に日清食品HDに入社したときのIT部門は、どのような状況だったのですか。
喜多羅氏 当時は、業務部門からのリクエストをひたすら打ち返すだけでした。「業務内容に関することは口出ししなくていいから、ExcelやAccess(データベース管理システム)を駆使して基本的な数字を出してほしい。意思決定や管理会計は私たちがやります」――というオーダーに従っていた格好です。そもそも、当時はシステムをサポートする部門だったので、それで業務が回っていたのです。
私がCIOに就任してから最初にスタッフに言ったのは、「IT部門の仕事には2つの柱がある」ということでした。一つはプロジェクトマネジメント、もう一つはサービスマネジメントです。
システムだけを動かすのではなく、ITのプロとして、世の中の先進的なIT部門と同じような仕事をしていくことを、最初に強く打ち出しました。「売上と利益に貢献する、競争力のあるIT部門を目指そう」ということです。この6年間は、IT部門のメンバーを育成し、私が理想とする形でIT部門を運営することができる体制作りに注力してきました。
それまでは、とにかく依頼されたことをきちんとこなすのがミッションでしたから、スタッフには考え方を大きく変えてもらう必要がありました。きっと大変だったと思います。ただ、面談などで話を聞いてみると、彼ら自身も「フラストレーションがたまっていた」と言うんですよ。よその会社はITを活用していろいろときらびやかなことをやっているのに、自分たちは「コストを使うな、と言われ続けてきた」――と。そこに新しいCIOが来て、「波が来た!」という感覚があった、と聞いています。
関連記事
- 日清食品HDのIT部門トップに聞く 「変化に強いリーダー」はどうやったら育つのか
これまでの当たり前を疑える目を持ち、社内外からさまざまな情報を集めてくるフットワークの軽さがあり、変化に対応できる柔軟なマインドを持っている――。そんな“変化の時代に必要とされるリーダー”は、どうやったら育つのか。 - 日本郵便の“戦う専務”が指摘――IT業界の「KPI至上主義」「多重下請け構造」が日本を勝てなくしている
先進国の中でもIT活用が遅れている日本。その原因はどこにあるのか――。日本郵便の“戦う専務”鈴木義伯氏とクックパッドの“武闘派情シス部長”中野仁氏が対談で明らかにする。 - 間違った方向に行きかけたとき、プロジェクトを止める勇気を持てるか――「東証を変えた男」が考えるリーダーシップの形
今やビジネス課題の解決に欠かせない存在となっているIT。この「ビジネスとITをつなぐ」かけはしの役割を担うリーダーになるためには、どんな素養、どんな覚悟が必要なのか。 - “東証を変えた男”が語る、金融業界の伝説「arrowhead」誕生の舞台裏――“決して落としてはならないシステム”ができるまで
2005年11月から2006年にかけて、システム障害を起こし、取引が全面停止するという事態に陥った東京証券取引所。世間の大バッシングの中、そのシステム刷新をやってのけたのが、現在、日本郵便で専務を務める鈴木義伯氏だ。当時、どのような覚悟を持って、“落としてはならないシステム”を作り上げたのか。 - CIOの役割は「会社の戦闘能力を上げること」 でも、どうやって? 変化の渦中でRIZAP CIOの岡田氏が描く戦略は
これから自社の戦略を大幅に変更し、成長路線を目指すRIZAPグループ。ファーストリテイリング出身で、現在、RIZAPグループでITと経営をつなぐ役割を果たすCIO、岡田章二氏に、変化の時代に会社の戦闘能力を上げるための方法や業務現場との付き合い方、CIOとしての持論を聞く。 - DMM亀山会長がベンチャーブームに物申す「プレゼンがうまいだけの起業家が増えている」
DMM亀山敬司会長、ジーンクエストの高橋祥子社長、Gunosy の福島良典取締役 ファウンダー、セガサミーホールディングス里見治紀社長が、テクノロジーと経営について熱い議論を繰り広げた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.