日清食品HDの知られざる「IT革命」とは? 変革の立役者に直撃:武闘派CIOに聞く、令和ニッポンの働き方改革【前編】(2/4 ページ)
40年間使い続けた古いシステムを撤廃、ビジネスの課題を解決できるIT部門へ――。そんな大きな変革プロジェクトでIT賞を受賞したのが日清食品ホールディングスだ。2013年、CIO(chief information officer)に就任した喜多羅滋夫氏は、どんな方法で昔ながらのIT部門を“戦う集団”に変えたのか。プロジェクトの舞台裏に迫った。
“受け身のIT部門”はどんな方法で変わったのか
―― 受け身のマインドをどのような方法で変えていったのですか。
喜多羅氏 変わりたいけど変われないという人の多くは、変わるためにどうしたらいいかが分からないだけなのです。だから、変わる方法を教えてあげればいい。IT部門の場合は、「IT部門の仕事は、具体的にはこういうステップで進めていく」と繰り返し教えていけばいいんです。
例えば、ITサービスマネジメントを例に挙げると、ITIL(Information Technology Infrastructure Library:成功事例を体系化したガイドライン)というものがあって、一定の方法論にのっとってサービスを管理していきます。「課題が発生する」→「チケットを登録する」→「チケットを登録したら2週間以内に解決する」というようなイメージです。そして、「解決できるときはこうする」「解決できないときはこのフローにのせる」と分岐させる。まずは、このような世の中で標準といわれている方法で仕事を進めるようにしたわけです。
プロジェクト管理も、計画書を作るときには必ず決まった要素があります。「プロジェクトの成果物は何か」「組織はどうなっているのか」「コストはどうなっているのか」「スケジュールはどうなっているのか」「どんな課題やリスクがあり、どのような手を打つのか」――といった基本的な情報を、毎回整理して可視化するわけです。私が求めるところは一貫していて、「マネジメント向けのコミュニケーションには、業務の価値や成果が入っていなければならない」。これを繰り返しているうちにスタッフも、「喜多羅さんと話すときには、この情報を用意しておかなければならない」ということが徐々に分かってくる。それを継続していくことで、基本的なやり方に沿っていれば、プロジェクトがスムーズに進んでいくと気付きはじめるのです。
もちろん、最初はなかなかうまくいきませんでした。「お金がないからできないんです。だからそのままにしていました」――というようなことを平気で言うスタッフもいて、さすがに「ちょっと待て!」と。「なぜ、自分ごととして責任を持ってやりきろうとしないのか」というところはかなり強く指導しました。
ただ、これだと単なる怒りん坊のリーダーですから、できるようになったときには大げさなくらいに褒めます。褒めるのはとても大事なことなのですが、日本人はなかなかうまくできなくて、実は私も得意ではありません。でも、できないながらも、彼らの中にうずいている「自分たちはもっとやりたいことがあるんだ」という気持ちにどうやって火を付けたらいいのかを考え、試行錯誤してきました。
こうやって言葉のキャッチボールを続けていると、人は変わってきます。例えば、あるプロジェクトの担当者の場合、当初は「お金もないし、ユーザーも話を聞いてくれないから……」と消極的なことばかりを言っていたのですが、「それはプロとしての発言なのか! サービスが利用できなくなった時に責任取れるのか!」という話を繰り返していくうちに、仕事を自分ごととして捉え、自走する人へと変わっていったんです。
2017年度の「IT総合賞」を受賞した「180システムを7割超削減、40年使い続けたメインフレームを撤廃した『レガシーシステム終了プロジェクト』」で中心的な役割を果たしたのも、そういった担当者のひとりです。彼は日清食品HDの生え抜きベテラン社員なので、同じプロパーの社員たちが「自分たちも変われる。彼にできるのなら、自分たちも頑張ればできる」と思うようになったのではないでしょうか。
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