全財産1200円まで落ちぶれた実業家の軌跡――京町家の分散型ホテルビジネスを成功に導いた原動力とは?:電気もガスも止められて(4/5 ページ)
京町家での分散型ホテルという宿泊ビジネスを確立し、急成長を続けているベンチャー企業がある。京都に進出してわずか2年で、約50棟の京町家・一棟貸しの宿を市内で運営するトマルバ。その創業者、山田さんに話を聞いた。
京都で再びゼロからの挑戦
―― そのときは民泊事業で京都に進出することは考えていなかったのですか?
山田 そうですね。京都に来ることは全然考えてなかったです。ただ、東京で民泊やっていく中で一番感じたのは、他の宿と差別化をするにも、できることが限られているということです。20平米前後のマンションの一室で、かわいい天蓋付きのベッドを置いたり、とにかくスタイリッシュな部屋にするとか、いろいろとコンセプトのある部屋を作りましたが、模様替え程度のことしかできません。
表面的な誰でもできるようなことではなく、自分たちにしかできない明確な差別化ポイントが無いと価格競争に巻き込まれて、いずれ厳しくなるとずっと不安がありました。
その後、民泊に関する法律を調べているうちに、民泊宿への宿泊日数の規制など、事業を続けるうえで厳しい状況になっていくことが分かり、新宿からは撤退し、やっていた事業を売却しました。
ただ、これまで培った民泊のノウハウを全て捨てるのはもったいないと考えているときに、たまたま代表の芦野と京都に来る機会がありまして、そのときに芦野が京町家にすごくほれ込んだんです。
「京町家という歴史的なコンテンツそのものに価値がある」「内装や間取りも含めて、一から自分達でデザインしプロデュースできる」「空き家を再生し地域を活性化できるので、地域創生につながる」という3つの観点から民泊やホテルとは違う差別化ができると感じ、京町家の分散型ホテルで勝負しようと決めました。
―― 京都に移ってからはどのようにして町家事業を始めたのですか?
山田 縁もゆかりもない、何も分からない状態で京都に来ているので、苦労の連続でした。
町家は建物自体がとても古く、不動産的価値がほぼゼロと判断されてしまうことが多いので、銀行からの融資が下りない場合が多くあるんです。しかし、町家を買って大掛かりなリフォームをするとなるとそれなりの金額になるので、どうしても資金は必要になります。なので、京都中の銀行を200件ほど回って、頭取に手紙を書いたりとあらゆる手を尽くして資金調達をしました。
そんな苦労の末、なんとか資金の都合がついて、最初にプロデュースしたのが「和紙ノ宿」なんです。一軒目ができたあとは、実績をアピールできるようになったので営業しやすくなったのですが、融資の問題はずっと付いてきています。
今は金融機関の融資に頼らない形で、クラウドファンディングやファンド、大手企業と一緒に京町家の宿泊施設の開発を進めたりもしています。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.