スープラ ミドルスポーツの矛盾構造:池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)
「ピュアスポーツを作りたかった」という想いのもと、幾多の犠牲を払ってホイールベース/トレッド比を縮めたスープラ。しかし自動車を巡る規制の強化は続いており、どんなに最新技術を凝らしても、過去のピュアスポーツカーと比べれば、大きいし重いし、ボンネットが高い。それでも、10年、20年の時を経て振り返ったら「あれが最後のスポーツカーだった」といわれるかもしれない。
スポーツカー変遷史
少し定義を緩めて、純粋性の高い量産ライトウェイトスポーツカー、例えばかつてのMGやマツダ・ロードスターあたりまで「ピュアスポーツ」だと拡大解釈したとしてもやはりちょっと辛い。
そもそもこうしたライトウェイトスポーツの系譜は、衝突安全や排ガス規制で一度絶滅した。規制への対応のために大型化を受け入れた結果、スポーツカーはほぼ全てミドルスポーツへと変遷していった。価格も上昇するため、当然豪華さも求められ、スポーツカーとスペシャリティカーの境目が不明瞭になっていく。それが70年代のトレンドだった。ポルシェでいえば924。日産のフェアレディZもトヨタ・セリカもその時代に生まれた。スープラの祖先であるセリカXXもまさにそうしたトレンドを背景に誕生したクルマである。
この時代のスポーツカーやスペシャルティーカーは、少しでも出力の大きいエンジンを積んで高速化を目指した。となれば大きく重くなる。
そうした流れに逆行して、現代の技術で何とかライトウェイトスポーツを復権させられないものかとトライしたマツダ・ロードスターがとりわけ異様なのであって、ロードスターはど真ん中のスポーツカーでありながら、同じジャンルにライバルがいない特殊なクルマになっている。
さてスープラとは何か? の話に戻ると、やはり先祖の特徴は継承しないとスープラではなくなる。チーフエンジニアはそれについて「直6FRでないとスープラではない」と言う。それは市場がスープラに持つパブリックイメージであり、トヨタ自身にも何ともできない問題だ。だからロードスターのようなライトウェイトスポーツではなく、ミドルスポーツカーの文脈を踏襲しなくてはならない。
ところが、70年代と違って、今では高速化に意味を見出すのは難しい。80年代には大衆車でも180キロのリミッター速度に達することが珍しくなくなり、乗用車とスポーツカーを最高速度で差別化することができなくなった。だったらミドルスポーツカーとは何なのか?
そうして日本の量産スポーツカーは混迷の時代に入る。70型スープラと80型スープラのキャッチコピーを比較すると面白い。前者は「TOYOTA3000GT」であり後者は「THE SPORTS OF TOYOTA」。
TOYOTA3000GTは明らかに高出力化高速化の文脈にある。言葉が定義するのは大排気量エンジンのハイスピードクルーザーであり、それゆえに自覚的であるかどうかはともかく「GT」を打ち出した。ところが、70と同じ切り口を、80は継ぐことができなかった。新しい時代の価値に「THE SPORTS」、つまり「これぞスポーツカー」という言葉を組み入れた。そしてそれが定義するものはあまり明瞭ではない。
関連記事
- トヨタがスープラを「スポーツカー」と呼ぶ理由
長らくうわさのあったトヨタの新型スープラが、年明けの米デトロイトモーターショーで発表されることになった。今回はそれに先駆けて、プロトタイプモデルのサーキット試乗会が開催された。乗ってみてどうだったか? - スポーツカーにウイングは必要か?
数年前から相次いで復活しているスポーツカー。スポーツカーと言えば、エアロパーツが象徴的だが、果たしてウイングは必要なのだろうか? - 歴代ロードスターに乗って考える30年の変化
3月上旬のある日、マツダの初代ロードスターの開発に携わった旧知の人と再会した際、彼は厳しい表情で、最新世代のNDロードスターを指して「あれはダメだ」とハッキリ言った。果たしてそうなのだろうか……? - 上からも下からも攻めるトヨタ
トヨタは2つの発表をした。1つは「KINTO」と呼ばれる「愛車サブスクリプションサービス」。もう1つは販売チャネルの組織改革だ。ここから一体トヨタのどんな戦略が見えてくるのだろうか? - トヨタ、17年ぶり復活の新型「スープラ」世界初披露 日本では19年春に発売
トヨタ自動車がスポーツカー「スープラ」の新型を世界初披露。日本では2019年春頃の発売を予定する。デザイン面では伝統を継承しつつ、操作性を向上させた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.