スープラ ミドルスポーツの矛盾構造:池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/6 ページ)
「ピュアスポーツを作りたかった」という想いのもと、幾多の犠牲を払ってホイールベース/トレッド比を縮めたスープラ。しかし自動車を巡る規制の強化は続いており、どんなに最新技術を凝らしても、過去のピュアスポーツカーと比べれば、大きいし重いし、ボンネットが高い。それでも、10年、20年の時を経て振り返ったら「あれが最後のスポーツカーだった」といわれるかもしれない。
厳格化する法規制の下で
という背景を全部ひっくるめて見ると、そもそも大規模メーカーのクルマで「ピュアスポーツ」といえるクルマは現状ほぼない。スープラがピュアスポーツを標榜(ひょうぼう)すると、歴史上の、あるいは少量生産メーカーのピュアスポーツと真正面から比較されてしまうのだ。
ところが当時と今では(除外されている少量生産含む)クルマをめぐるさまざまな規制が違う。前述のチーフエンジニアも「もしかつての基準でいいのであれば、あと200キロ以上は軽くできた」と言う。規制に従う限り、どんなに最新技術を凝らしても、過去の、あるいは規制の適用を免除される少量生産の現行ピュアスポーツカーと比べれば、大きいし重いし、ボンネットが高い。ちなみにボンネットが高くなるのは歩行者保護のためにボンネットとエンジンの間に衝撃を吸収する隙間が必要だからだ。これについてチーフエンジニアは「ポップアップ式フードを使おうが何をしようが、丈の高い直6エンジンを使う限り、あれ以上下げられません」と言う。
「衝突以上に厳しいのは通過騒音規制です。多分今年か来年ぐらいがエンジン音を楽しめるクルマを作れる最後くらいだと思います。20年以降のレギュレーションはどんな技術を使っても今の延長には答えがないんです。スポーツカーをどこの会社も作らなくなったのは、ビジネス上難しいこともありますが、ものすごく規制のハードルが上がったからなんです。スーパーカーみたいなものだったら適用除外みたいなこともあるんですけれどね」
つまり、新型スープラは何かという問いに対する答えは、直6FRという伝統を引き継ぎつつ、量産メーカーとして現在の規制を真正面から受け止めて、可能な限り頑張ったピュアスポーツということになる。具体的にいえばポルシェのケイマン/ボクスターがターゲットだ。なおポルシェは、性能的に恐ろしくレベルが高いそれを、デビュー当時プロムナードカー(お散歩用)だと表現した。
社会が定めたルールがある限りそれ以外に道はなかったし、今後さらに厳しくなる規制を考えると「これが最後になるかもしれない」とチーフエンジニアは言うのだ。
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