Libraの2つの顔 超国家企業連合か、暗号通貨の「伝統」か(6/6 ページ)
Libraが成功した際には、超国家的な通貨ネットワークが実現する可能性がある。それだけに、各国の警戒心は強い。グローバルな巨大企業が多数参加するという非中央集権的な側面と、ビットコインを起源とする非中央集権的なあり方を理想とする側面の2つを持つ。日本での法的位置づけも不透明だが、今後どんなシナリオがあるのかも探る。
Libraの「天秤」はバランスできるか──2つのシナリオ
Libraの今後には不透明な部分が多い。まずFacebook/Calibraは米国の議会や規制当局から厳しくLibraの実態を精査されることになる。ここで、今後考えられるシナリオを示してみよう。仮説や予想を含むシナリオなので、あくまでも「可能性の一つ」として見ていただきたい。
きわめて楽観的なシナリオ──Libraは各国の規制当局との議論を乗り越え、サービスを開始する。Facebookのユーザーを誘導してLibraは大きなユーザー数を獲得する。Visa、MastercardのクレジットカードやPayPalによる送金、仮想通貨交換所のCoinbaseでの交換により、巨額の資金がLibraに流入する。ライドシェアのUber、Lyftや音楽配信のSpotifyなどのサービスで支払いに使われるようになる。Facebook自身もゲームなど有料コンテンツをLibra建てでサービス提供する。このようなLibra経済圏がうまく回るようになった段階で、パーミッションレス化(非中央集権化)を推進。Libraは名実ともに特定の企業グループの利害とは独立した中立的な暗号通貨として認められるようになる。
やや悲観的なシナリオ──規制の結果、Libraを利用できる国はごく少数に限られる。参加できる企業は、取引データを当局に提出する約束をする。すべてのLibraユーザーには厳格なKYC(本人確認)が求められ、それが面倒なため登録しない人々も多い。ある程度のユーザーを集めところで、Libra協会の資金運営上の不正、あるいはシステムの不備が発覚。Libraは信用を失ってしまう。
Libraの未来はどちらのシナリオに近いのか、それはまだ分からない。確かな事は、Libraの推進側はこれから米議会、米金融規制当局をはじめ多くの人々と、論戦を繰り広げなければならないということだ。Libraが発表されたことで、暗号通貨をめぐる国際的な金融規制フレームワーク作りが加速することは間違いがないと見ていいだろう。その影響は、Libraの後から登場するかもしれない他の企業通貨や、今までの暗号通貨にも及ぶ。
ここで筆者には一つの意見がある。前述のケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルのように、Facebookは数々の新しい種類の課題を抱えている。同社にとって、Libraの立ち上げのために求められる「金融規制をクリアする」という課題は、数多くの難題の一つにすぎない──それも、ある程度は解決の道筋が見えている課題なのではないだろうか。
Facebook CEO兼創設者のマーク・ザッカーバーグ氏は、6月18日のFacebookへの投稿の中で「Libraの公式ローンチの準備が整う前に、学ぶべきこと、すべきことがたくさんあります」と記している。FacebookらLibra推進側が学び、実行することで、Libraは成長の各段階で天秤のバランスを適切に保ち続けようとするだろう。その挑戦がどんな結果に結びつくのかを見守りたい。
注:Libra協会は、Libraを暗号通貨(Cryptocurrency)と呼んでいる。ITmediaの記事では「仮想通貨」という用語を使う場合が多いが、記事中にあるように、Libraが日本の資金決済法でいう仮想通貨(改正法では暗号資産)にあたるかどうかはまだ分からない。今回の記事では、Libraに対して「暗号通貨」という言葉を使い、日本の法律用語である「仮想通貨」とは使い分ける形とした。
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