『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【前編】:マシリトが行く!(3/8 ページ)
『ジャンプ』伝説の編集長、マシリトこと鳥嶋和彦氏が21世紀のマンガの在り方を余すところなく語った前編――。
いかに早くサイクルを回してヒットの芽を探すか
原田: 非常に合理的な考え方だと思うんですけれども、『少年ジャンプ』に限らず漫画雑誌であれば、有望な新人作家の発掘も部数増の手段として欠かせません。鳥嶋さんはそちらについても、編集者時代から力を注いでいましたよね。
鳥嶋氏: 新人の発掘・発見と育成ですね。僕が戻った時の『少年ジャンプ』は、「パチンコ屋の新装開店と一緒だ」とよくスタッフには言っていました。中身は変わっていないのに、外の看板だけが別っていう。ヒットしていない、力がないと分かっている作家を“新連載”と打ったって、同じ人がやっていれば、読者から見れば焼き直しなんですね。読者に見え見えで、それじゃあ全然新しくない。今いる作家を一回全部捨てて、新しい作家を導入するしか、本当の意味での誌面の立て直しはできない。
新人を使うことの最大の良さは、感性が読者に近いから、ヒットを非常に作りやすいんですね。さらに、新人はベテランに比べて構成能力は落ちるんですが、原稿料が安い。原価が安いから失敗しても響かないんです。新人の新連載を起こして、潰(つぶ)して、それをいかに早いサイクルでやっていって、ヒットの芽を探すか。これしかないんです。
鳥嶋さんも鳥山明さんに多くの読み切りを描いてもらうことによってヒットの芽を探り当てた(『ドラゴンボール』のもとになった騎竜少年(ドラゴンボーイ)、『鳥山明○作劇場 2(ジャンプコミックス、集英社) 』より)
実は『少年ジャンプ』の原点がそこにありまして。さっきも言いましたけど、『ジャンプ』は『マガジン』『サンデー』から約10年遅れて創刊したんですね。『少年ジャンプ』が10万5000部で創刊した時に、『マガジン』『サンデー』は100万部。作家をリクルートに行っても、作家のところに後から講談社や小学館の編集者から電話がかかってきて、全部断られる。結果的に、『ジャンプ』では新人を使うしかなかったんです。他に手がなかったので。
だから、今に至る『ジャンプ』の三大編集方針の1つは、新人の発掘・育成・登用です。でも新人だから力がない。だから2つ目の編集方針は、作家と編集者が二人三脚で作る。徹底的に打ち合わせをする。『マガジン』『サンデー』は作家にお任せで、編集者がチェックしないんですね。原稿を頂いてくるだけですから。原稿を“玉稿”と呼んで押し頂いてくる。そういう編集部でしたから。
それから3つ目は、読者の声を聞く。新人の原稿ばかり並んでいるので、本当の評価はどうなのか。部数が伸びないから「果たしてこの原稿はどうなの?」というのが、編集部の中でもあったと思うんですね。だから読者の声を聞こうということで、アンケートハガキで○を3つ付けてもらう。これが『ジャンプ』の三大編集方針です。
原田: 実際に鳥嶋さんの編集長時代にもそういう方針の下で尾田栄一郎さんを発掘して、『ONE PIECE』が新たな『ジャンプ』の主役となりましたね。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
『ジャンプ』伝説の編集者が「最初に出したボツ」 その真意とは?
『週刊少年ジャンプ』で、『DRAGONBALL』(ドラゴンボール)や『Dr.スランプ』(ドクタースランプ)の作者・鳥山明さんを発掘した漫画編集者の鳥嶋和彦さん。鳥嶋さんの代名詞である「ボツ」を初めて出したときの状況と、その真意を聞いた。
「これさぁ、悪いんだけど、捨ててくれる?」――『ジャンプ』伝説の編集長が、数億円を費やした『ドラゴンボールのゲーム事業』を容赦なく“ボツ”にした真相
鳥山明氏の『DRAGON BALL(ドラゴンボール)』の担当編集者だったマシリトこと鳥嶋和彦氏はかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイに対して、数億円の予算を投じたゲーム開発をいったん中止させた。それはいったいなぜなのか。そしてそのとき、ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。“ボツ”にした経緯と真相をお届けする。
『ジャンプ』伝説の編集長が、『ドラゴンボール』のゲーム化で断ち切った「クソゲーを生む悪循環」
『ドラゴンボール』の担当編集者だったマシリトはかつて、同作のビデオゲームを開発していたバンダイのプロデューサーに対して、数億円の予算を投じたそのゲーム開発をいったん中止させるという、強烈なダメ出しをした。ゲーム会社と原作元の間にはどのような考え方の違いがあったのか。「クソゲーを生む悪循環」をいかにして断ち切ったのか?
『ジャンプ』伝説の編集長は『ドラゴンボール』をいかにして生み出したのか
『ドラゴンボール』の作者・鳥山明を発掘したのは『週刊少年ジャンプ』の元編集長である鳥嶋和彦さんだ。『ドラゴンクエスト』の堀井雄二さんをライターからゲームの世界に送り出すなど、漫画界で“伝説の編集者”と呼ばれる鳥嶋さん。今回は『ドラゴンボール』がいかにして生まれたのかをお届けする。
『ジャンプ』伝説の編集長が語る「21世紀のマンガ戦略」【後編】
『ジャンプ』伝説の編集長、マシリトこと鳥嶋和彦氏による特別講義の後編――。コミケの初代代表である原田央男氏がリードする形で、文化学園大学の学生からの質問に直接答えた。
『ジャンプ』伝説の編集者が『Dr.スランプ』のヒットを確信した理由
鳥山明さんの才能を発掘した伝説の編集者・鳥嶋和彦さんが、コミケ初代代表の霜月たかなかさん、コミケの共同代表の一人で、漫画出版社の少年画報社取締役の筆谷芳行さんの3人がトークイベントに登壇した。
「最近の若い奴は」と言う管理職は仕事をしていない――『ジャンプ』伝説の編集長が考える組織論
『ドラゴンボール』の作者・鳥山明を発掘したのは『週刊少年ジャンプ』の元編集長である鳥嶋和彦さんだ。漫画界で“伝説の編集者”と呼ばれる鳥嶋さん。今回は白泉社の社長としていかなる人材育成をしてきたのかを聞き、鳥嶋さんの組織論に迫った。

