吉本興業の謝罪会見が、壮絶にスベった理由:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
吉本興業が謝罪会見で、壮絶にスベってしまった。と言っても、説明の中に気のきいたギャグがなかったとかそういう類の話をしているわけではない。筆者の窪田氏が言いたいことは……。
会見で「家族」や「ファミリー」を繰り返す
日大の「悪質タックル」をはじめ諸々のスポーツ不祥事でも分かるように、体育会は基本的に「パワハラ」で成り立っている。「上」が「下」に対して、きついしごき、どう喝、「愛のムチ」を振るうことで、組織は最強となり、個人の人間性も磨かれるという人材育成哲学があるのだ。
こういう組織で育った人間がトップにつけば、「下」にパワハラをするのは当然だ。
女子体操選手の横っ面を叩いて怒鳴り散らしたコーチが、「自分もそうやって指導されたので、それが当たり前だと思っていた」と述べたように、人は自分が「下」の時にやられたことを、「上」になった時に繰り返す生き物なのだ。
しかし、こういう「体育会ノリ」にありがちなイキったおじさんのサムさもさることながら、個人的にあの会見で一番スベっていたのは、「家族」「ファミリー」「身内」という、今の吉本のイメージにそぐわないパワーワードをこれでもかと繰り返していた点だ。
ブラック企業にお勤め経験のある方ならば分かるだろうが、ブラック企業ほど「オレたちは家族だ」とか「ファミリーは大事だ」とか言う。殴っても家族なので愛がある。パワハラをしても、愛があるので指導。これまで面倒見てきてやったじゃないかと言う恩を売って、暴力を正当化するのだ。
契約書もない口約束で、ギャラは「搾取」といっていいほど低い。会社の方針に従わず、個人の権利として代理人弁護士を立てれば、お前はクビだ、引退せよと一方的にどう喝する。それを批判されると、「我々はファミリー」を繰り返す。
ご本人たちにその意識が全くないところが逆に深刻だが、世間でいうところの「ブラック企業」の条件をほとんど満たしている。
岡本社長は会見冒頭、反社と関係を断つためにコンプライアンスを徹底すると強調した。結構な話だが、その前にまずはご自分たちの組織カルチャーや、ビジネスモデルのコンプライアンスから見直すべきではないのか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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