RPAツールを導入する、もしくは本格導入の検討を始めた企業が急増している。RPAとはRobotic Process Automation(ロボティック・プロセス・オートメーション)の略だ。一般的にはPCを使った単純な定型業務を、ソフトウェア型のロボットが人に代わって実行することを指す。
RPAツールの必要性が高まっている背景には、働き方改革関連法が4月から施行されたほか、多くの企業が業務の効率化などの課題を抱えていることが考えられる。こうした課題を解決する手段の1つとして、RPAが注目されているのだ。
アイティメディア社のキーマンズネットがサイトの読者であるビジネスパーソンに「2019年のIT投資動向調査」を実施したところ、回答からはRPAへの投資を予定している企業の多さが目立った。一方で、導入する際の壁の高さや、運用の難しさを感じているなどの課題も浮き彫りになった。
しかし、この調査結果を踏まえて、RPAについて誤解している人がまだまだ多いと専門家は指摘する。日立製作所 デジタルソリューション推進本部 ソリューション事業推進部の西部憲和主任技師は「コスト削減だけにとらわれて、RPA導入がもたらす効果を正しく理解していない可能性がある」と話す。アンケート結果をもとに、西部氏にRPAツール導入のコツを聞いた。
2019年は「RPA導入元年」
「2019年のIT投資動向調査」は、18年11月〜12月にキーマンズネットのWebページ上で実施し、1541人から有効回答が得られた。
IT関連で19年に投資を予定しているジャンルを質問したところ、「Windows10の導入」「社内IT基盤」や「クラウドIT基盤の整備」に次いで、「RPAを含む業務の自動化」が4番目に挙がった(図1)。しかも、18年度と比較すると、業務の自動化は13.9%から19.1%に伸び、急速に注目度が上がっている。
日立製作所でソリューション事業推進部の主任技師を務め、企業のRPAツール導入の現場に関わっている西部憲和氏は、RPAを中心とした業務の自動化への投資が伸びているのは、導入する業界が広がり始めたためと解説する。
「RPAの導入は、金融業や製造業で早くから取り組まれてきましたが、効果が出てきたことを踏まえて、流通業、サービス業や、建設・不動産業にも広がっています。また中堅・中小の企業でも、部品メーカーなどで導入を進めているところが非常に多くなりました。全国的にも導入が進んでいて、19年は本格的なRPA導入元年と言えそうです。この動きは今後2、3年は続くのではないでしょうか」
続いて、RPAに対する理解度を見てみたい。「利用したことがある」が11.2%、「具体的に何をするものかを知っている」が47.0%と半数以上が理解している一方、「名前は聞いたことがある」が23.5%、「知らない」が18.4%と、あまり理解していないとみられる層も4割を超えた(図2)。
さらに、勤務先でRPAを導入する予定があるかどうかを質問すると、7割近くが導入を進めている、もしくは導入を予定しているという結果になった。「導入しておらず、今度も導入する計画はない」は31.3%だった(図3)。
この結果について西部氏は「金融や製造業以外では、まだ導入の取り組みは始まったばかりなので、会社が導入を検討していても、経営者の理解を得られず社内での展開が進んでいないため、実際はRPAについてまだ知らないか、もしくはよく理解していない人が多い」と見ている。
RPA導入で働き方改革をスタート
また、導入計画がない企業が3割を超えている点について西部氏は、RPAのことを知らないケースのほかに、経営者と現場がそれぞれRPAについて誤解しているために導入を考えていないケースもあるという。
「RPAを導入する際のアプローチは、現場が導入を求めるボトムアップと、会社のIT部門とコンサルタントなどが組んで全社に展開するトップダウンの2通りがあります。
ボトムアップで導入しようとした場合、経営層が費用対効果がないとして認めない、または認めていただけるまでに時間がかかるケースが多いです。この場合の経営層は、RPAをコスト削減の手段としか考えていません。逆にトップダウンで導入しようとした場合、現場からは『RPAで効率化が進むと、自分たちの仕事がなくなるのではないか』と心配する声が上がります。いずれも大きな誤解です」
では、RPA導入のメリットはどこにあるのか。西部氏は「現場が働きやすい環境を作り、品質の向上につながること」と説明する。
「RPAツールによって自動化できる代表的なものは、請求書や売り上げ集計・報告、給与の管理などのバックオフィス業務です。数字を扱う業務には精神的なプレッシャーが伴い、担当者はストレスを感じます。RPAを導入することによって、効率化を実現するだけでなく、担当者のストレスも軽減できます。また、新たに生まれた時間は、品質向上や付加価値が高い業務のために使えます。
つまり、RPAツールの導入は、現場が働きやすい環境を作り、生産性の向上をめざす、働き方改革のスタートだと考えています。人が大事だということに変わりはありません。現場のやる気と働きがいを高める視点を共有すれば、経営層も現場も正しい理解が進むと思います」
「野良ロボット」はびこる危険も
調査では、RPAを実際に導入した企業が抱える課題についても聞いた。導入時やトライアル時に直面した課題は「導入成果の算出が難しい」が最も多く、「事前準備が面倒」と「RPAロボットのスキルを持った人がいない」が続いた(図4)。
導入成果の算出が難しいのは、現場だけでRPAツールを導入しているケースが多く、まだ成果を算出するところまで行き着いていない可能性が考えられる。
事前準備についても、全てをRPAで置きかえようとすると、業務一覧作成、業務内容のヒアリングから手順作成・実際に要している作業時間の整理など、気が遠くなるような膨大な作業量になりかねないという。西部氏はRPAを導入する前に、現場でどの業務を自動化すると効果があるのかについて、まずは作業時間、作業人数、業務の重要度など優先順位を付け、全体の20%〜30%を目安に整理することを勧めている。
RPAロボットのスキルを持った人がいない場合、誰を教育するのが一番効率が良いか、多くの企業の管理職が悩みがちだ。いくら簡単なRPAであっても、用語の壁と処理ロジックの壁に当たる可能性がある。そうした企業においては、Excelの操作を自動化するExcelマクロの知識を持っている人を活用することで、ある程度対応が可能になるという。
次のステップとして、本格導入する際にどのような課題を感じているのかを聞いた。「RPAロボットスキルを持っていない」がトップだったほか、「ロボットの運用が煩雑」「期待したROI(Return On Investment)が出ない」という回答が上位を占めた。(図5)。
ロボットの運用を巡るトラブルは、RPAの落とし穴とも言える。各部署が勝手に導入すると、業務や担当者によって導入するツールがバラバラになり、違うシステムのロボットが混在してしまう。
名前が違うのに、実際は同じ処理をしているロボットが複数存在するケースも多いという。名前の先頭の3文字に業務名をつけるといったルールを作った方が良く、管理ができていないと、ロボットオーナー不在の「野良ロボット」がはびこってしまうのだ。
ロボットが止まることも少なくない。西部氏によると、誰でもリカバリーができるように業務手順書マニュアルを整備することや、ロボットがどの業務のどのシステムの画面にアクセスして、どんな処理をやっているのかが分かる仕様書を作成しておく必要があるという。
初期コストだけでなくランニングコストにも注目を
では、RPAツールはどんな観点で選べばいいのだろうか。現在、RPAツールは数十種類あるといわれ、日本国内では「Automation Anywhere」「 Biz-Robo!」「Blue Prism」「UiPath」「WinActor」などがメジャーな存在だ。
調査では「RPA製品の選定時に重視すること」の問いに対して、「コストが安い」という回答が最も多く、61.0%にのぼった。しかし、コストの安さだけで考えると、かえって後から費用がかかる可能性を西部氏は指摘する。
「初期導入コストが安いツールが目につきがちですが、ずっと使うわけですから、機能やランニングコストを重視する必要があります。
RPAツールは操作、開発・保守のしやすさに加え、障害時に原因究明が行なえるようログ出力機能が充実しているかどうかは重要です。また、正しく業務が行なわれたかという意味でもRPA自身のログやシナリオで出力する任意のログを残していなければ監査には耐えられません。
また、外部から情報を抜き取るなど、連携するインターフェースが充実したものを選んだ方が、ランニングコストを減らすためには有効です」
RPAの課題を解決する統合システム運用管理「JP1」
このように、RPAは決して万能というわけではなく、得意なこともあれば不得意なこともある。RPAに不足している部分を補って、運用レベルを上げることを可能にするツールの1つが、日立の統合システム運用管理「JP1」だ。
「JP1」は基幹系システムの運用管理システムとして1994年の提供開始以来、国内運用管理市場を牽引(けんいん)。基幹系システムの業務運用の自動化で培ったノウハウや技術が、RPAの運用にも生かされている。
大きな特徴は、データ収集の自動化やロボットの運用、それにログなどが1つのインターフェースで一元管理できること。特定の部署からRPAの導入を始めて、ロボットの台数が増えたら全社的に導入するといったステップアップにも対応している。
そもそもRPAが処理するバックオフィス業務は、基幹系システムと連携するものが多い。両者を包括的に運用することで、効率化の効果を上げることができる。具体例を西部氏に聞いた。
「業種を問わず財務系の部署では、既存基幹系システムと夜間バッチの連携が効果を発揮するケースがあります。月末や期末、年度末には、売り上げなどを夜間バッチで集計し、担当者は月や期が明けた翌日に早出して報告書を作成しています。そのため早く出社しないといけなかったり、その日は年休を取れなかったりなど、かなりのプレッシャーだったりします。
JP1を使えば、翌日の朝まで待たなくとも自動でバックオフィス側のロボットと連携し、報告書まで自動生成できるので、担当者は通常通り出勤して報告書の確認をするだけですみます。RPAは基幹系システムと連携することでこのような効果を産むことができるのです。
JP1はRPAの特長を生かしながら、自動化の範囲を広げることで、生産性向上に寄与できます。従業員の働き方に優しくできるインフラづくりのお手伝いもできると考えています」
RPAへの正しい理解と一元管理の工夫を
現在、RPAの導入が金融業や製造業以外の業界にも広がりつつあり、導入を検討している企業は急速に増加しつつある。2019年は本格的なRPA導入元年というべきタイミングで、ここ数年はRPAの導入がトレンドになることは間違いない。
その一方で、RPAがまだまだ正しく理解されていないことも見えてきた。RPA導入の大きなメリットは、業務の自動化・効率化によって生産性の向上や働き方改革を実現することにある。経営層と現場がRPAについて正しく理解できるように、社内での教育や情報の事前共有が重要になってくる。
RPAには運用面での課題も無いわけではない。本格導入を考えている場合には、導入コストの安さだけにこだわるのではなく、運用と管理が楽になる総合システムで一元管理する方が、長い目でみて得策のようだ。結果的にランニングコストの削減にもつながり、RPAを活用することの効果を最大限発揮できることになるだろう。
- Windows、Excelは、米 Microsoft Corporationの米国またはその他の国における商標または登録商標です。
- Automation Anywhereは、Automation Anywhere, Inc.の米国およびその他の国における商標または登録商標です。
- WinActorは、エヌ・ティ・ティ・アドバンステクノロジ株式会社の日本における商標または登録商標です。
- UiPathは、UiPath SRL Limitedの米国またはその他の国における商標または登録商標です。
- Biz-Robo!は、RPAテクノロジーズ株式会社の商標または登録商標です。
- Blue Prismは、Blue Prism Limitedの英国またはその他の国における登録商標または商標です。
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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia ビジネスオンライン編集部/掲載内容有効期限:2019年8月29日
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