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北朝鮮ツアーが謎のブーム!? “近くて遠い国”のインバウンド戦略を追う気鋭の北朝鮮研究者が分析(2/4 ページ)

北朝鮮で今、外国人を呼び込む観光が盛ん。“近くて遠い国”のツアー内容とは? 気鋭の北朝鮮研究者が迫る。

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最盛期には日本から3000人が観光

 フィールドワークで北朝鮮の実態に迫ることは非常に困難な状況が続いている。先に述べた平壌中心部の様子も、限られた旅程の範囲での筆者自身の印象論に過ぎない。何らかの見落としもあるだろう。

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『北朝鮮と観光』(毎日新聞出版)。著者の礒崎敦仁(いそざき・あつひと)氏は慶應義塾大学准教授。1975年東京都生まれ。在中国日本大使館専門調査員、警察大学校専門講師、東京大学非常勤講師、ジョージワシントン大学客員研究員などを歴任。北朝鮮について一線で研究し続けている。

 北朝鮮は、1987年より日本人の観光客を受け入れている。90年代半ばの最盛期には、1年間に3000人以上もの日本人が北朝鮮を観光で訪れていた。JTBや近畿日本ツーリストといった大手旅行会社が北朝鮮ツアーを主催し、名古屋や新潟からは平壌への直行チャーター便が飛んでいた。

 しかし、現在では日本政府が北朝鮮への渡航自粛勧告を出し、北朝鮮を訪問する人数は激減した。一時は年間5、60人程度まで落ち込んだが、史上初の米朝首脳会談が開催された2018年になって300人以上にまで回復している。それでも毎年200万人以上の日本人が韓国や中国にそれぞれ訪れていることに比べれば、桁違いに少ない。2018年には年間延べ1895万人もの日本人が出国している。

 さらに、北朝鮮査証(ビザ)は毎回スムーズに発給されるとは限らない。かの国にとって好ましからざる日本人には入国許可が下りないばかりか、国内事情によって外国人の入国が制限されることもある。

 北朝鮮の人口は約2500万人と言われ、そのうち250万人近い人口、総人口の約10分の1だけが平壌に集まっている。平壌中心部には首都市民の便宜を図るための施設が数多く建設され、水族館や遊園地も存在する。相対的に豊かな地域である平壌中心部の人口は約50万人、総人口の約50分の1しか住んでいない。そこでも、外国人観光客に対しては依然として「案内員」(ガイド)から離れた個人行動が許可されていない。

 限られた世界しか見ることができない以上、訪朝そのものによって得られる情報には相当な限界がある。しかし、そのことを十分に認識したうえで訪れるなら、意味のある知見を得ることもできるだろう。北朝鮮への入国が許可されなくとも成果を上げている研究者や分析官は多い一方、足繁(しげ)く平壌に足を運びながらも平衡感覚を保ち、貴重な研究業績を発信している研究者も少なからずおり、それぞれであることは言うまでもない。

 本書は「観光」を探究することを目的としているが、手法としてはフィールドワークに依拠するものではなく、主に公開情報の検証によって議論を展開していくこととする。

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北朝鮮のゲームで遊ぶ子どもたち。ゲームの名は「米帝侵略者どもを掃滅せよ」

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