リニアを巡るJR東海と静岡県の“混迷”、解決のカギは「河川法」か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/5 ページ)
リニア中央新幹線建設を巡る環境問題などの対応策について、静岡県に対する回答をJR東海が出した。しかし、県は納得していない。なぜ両者の議論はかみ合わないのか。問題点を整理し、解決方法を探ってみたい。
国交省の「調整」が始まっている
中央新幹線の工事について、JR東海は国から着工許可を得ている。ならば静岡県の意向にかかわらず、南アルプストンネルの工事も可能なはず。それを静岡県が制止できる理由は「河川法」である。「全国新幹線鉄道整備法」など鉄道関連の法律ではない。河川を工事するためには河川管理者の許可が必要で、大井川上流の河川管理者は静岡県だ。また、許可にあたっては水利、治水関係者の了承が必要になる。建設する物件がリニアでも鉄道でも道路でも、平和を守るロボットの秘密基地でも同じだ。ここに超法規処置はない。
大井川は一級河川(水系)だ。本来は国が河川管理者になる。しかし、一級河川(水系)は一部の区間について、国が都道府県知事や政令指定都市市長に管理を委任できる。大井川については河口から24.8キロが国の直轄管理で、その上流は静岡県が管理者となっている。
JR東海と静岡県の対話が膠着(こうちゃく)している事態に対し、国土交通省も対応を迫られている。国が建設許可した路線が建設されないという事態は看過できない。実は、表だって動いていないとはいえ、国交省が関与した形跡がある。ある関係者によると、静岡県は当初、JR東海の回答案を公表するつもりはなかった。そこに指導が入った可能性がある。7月12日に受領した書面が17日に公開された。この時間差がそれを示している。
また、回答案について「県の担当有識者と意見交換したい」というJR東海の要望も、当初は拒否しておきながら「オープンな場で」と後日受け入れている。なぜ県の方針が変わったか。県に意見できる立場はどこかを考えれば想像がつく。
もし、国が積極的に介入するとしたら、解決策を一つ提案したい。
大井川水系の管理者を静岡県から国交省に戻す。その上で河川管理者の国交省がJR東海に建設許可を出す。これで中央新幹線は着工できる。
それでも静岡県は水利、治水関係者として影響力を持つけれども、窓口は国になる。国が水利、治水関係者に約束し、JR東海に対して指導すれば良い。静岡県としても、大井川の管理、整備を国に移管すれば県の負担を減らせる。悪い話ではないと思う。いかがだろうか。
杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)
乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてPC雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。鉄旅オブザイヤー選考委員。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。
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