リニアを巡るJR東海と静岡県の“混迷”、解決のカギは「河川法」か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)
リニア中央新幹線建設を巡る環境問題などの対応策について、静岡県に対する回答をJR東海が出した。しかし、県は納得していない。なぜ両者の議論はかみ合わないのか。問題点を整理し、解決方法を探ってみたい。
JR東海との「直接対話」を拒む静岡県知事
工事着手問題の解決の糸口は、誤解なきよう議論を進めることだ。しかし、静岡県はJR東海との対話に応じようとしない。
JR東海社長は6月27日の定例記者会見で、今年3月と6月に静岡県知事にトップ会談を申し入れていたと語った。3月は多忙を理由に断られ、6月の申し入れは保留されている。静岡新聞6月28日付「JR東海『トップ会談を』 知事保留『流量減、回答重要』」によれば、記事の見出しの通り、静岡県知事は「回答書が重要」と静岡県庁で記者団に語ったという。
日本経済新聞7月17日付「JR東海、静岡県の中間意見書に回答案 リニア巡り」によると、JR東海は「回答案」をもとに静岡県の環境保全連絡会議の専門家と意見交換し、正式な回答書を作成するつもりだった。しかし静岡県側は意見交換を拒否した。ただし拒否は後に撤回され、7月26日の静岡県知事定例会見で「有識者数名とJR東海の担当者が公開で議論する場を設ける」と発表された。
静岡県知事がJR東海との直接対話を避ける一方で、中央新幹線沿線の周辺県には知事や副知事が積極的に訪問し、静岡県の立場への理解を求めた。このうち大きな理解を示した県は山梨県のみ。日本経済新聞7月31日付「リニア沿線県、割れる対応 静岡県とJR東海 対立続く」によると、長野県は「すでに工事に着手し地域住民に不便を強いている」として、早期着工を望む立場を説明した。岐阜県はリニア建設現場で土砂崩落が発生したものの、現場レベルでの調査とJR東海による対応が行われているとし、対立関係にはないという立場だ。
毎日新聞7月31日付「リニア問題 静岡県知事『直接話したい』 愛知県知事に会談要望」によると、愛知県知事は建設推進の立場を崩さず、静岡県知事の発言について「科学的に議論を」と不快感を示し、「静岡県の主張はこれまでと同じ」、静岡県副知事の訪問に対して「上から目線」と批判した。これに対して静岡県知事は「いつでも参ります」と会談に意欲的だ。
この流れを追うと、静岡県知事はJR東海のトップ会談は避けて、外堀の周辺県に窮状を訴える作戦をとったように見える。JR東海の回答が不満であれば、具体的にどこが不満か、どんな回答を求めているかをJR東海社長に伝えるべきではないか。
前掲の毎日新聞記事によると、静岡県知事は「私も早期開通を強く望む者の一人。われわれはリニアに反対しているわけではない」とまで語っている。それならばなぜ、解決の機会を自ら避けているか。報道は「静岡県が問題を長期化させている」という趣旨が目立ち始めた。これは静岡県知事の本意ではないはずだ。JR東海も「対立という報道には困惑している。私たちはご理解をいただく立場」という。
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