リニアを巡るJR東海と静岡県の“混迷”、解決のカギは「河川法」か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)
リニア中央新幹線建設を巡る環境問題などの対応策について、静岡県に対する回答をJR東海が出した。しかし、県は納得していない。なぜ両者の議論はかみ合わないのか。問題点を整理し、解決方法を探ってみたい。
なぜ「非現実的」? 静岡県に聞いた
静岡県広聴広報課からの返信は「中間意見書で『180基必要となる非現実的な設定』と指摘しているのは、ポンプではなく、湧水の水質等を処理する設備のことです。この処理設備を180基設置する場合、広大な面積が必要となり、現在確保している用地内での設置は不可能であり現実的ではないと専門部会で指摘されています」だった。
なんと「非現実的」の内容は、ポンプの能力や設置数ではなく、処理に必要な面積だった。だからJR東海の「300立方メートル36基」では静岡県は納得しない。静岡県が求めている答えはポンプの数ではなく「配置図面を作成せよ」である。だったらそう言えばいいのに。
「図面を作成せよ」のたった7文字を省略したばかりに議論がかみ合わない。静岡県は「JR東海が納得できる回答を示していない」と主張しているけれども、そもそも「どんな形の回答を求めているか」を示していないから、納得できる回答にならない。JR東海も「これ以上、どんな説明が必要というのか」と困惑している。議論は並行するわけだ。きっと他の項目もこんなやりとりではないかと疑いたくなる。
もう一つの質問「静岡県は予測不可能な部分まで事前説明させよと理不尽な要求をしていないか」についても、静岡県は「回答案については、予測不可能な部分もあるため、全てについて完璧に予測し対策を立てろという要求をしているわけではありません。専門部会においても、『できないことはできないと認めていただき、事前にできることをやっていただきたい』と指摘しております。予測不可能な部分については、まずはバックグラウンドデータの整理をした上で、リスク管理の指標を立て対策を提案するなど、根拠や妥当性を明確にしてほしいとお願いしています」とのことだ。
つまり「分からないことは分からないと正直に言ってほしい」だった。
静岡県の考え方。リニア自体には賛成しており、JR東海と「対立」しているわけではない。メディアによる対立の煽りは、釣られやすい関係者を硬化させる。慎みたい(出典:静岡県 リニア中央新幹線建設工事に伴う環境への影響に関する対応)
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