リニアを巡るJR東海と静岡県の“混迷”、解決のカギは「河川法」か:杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/5 ページ)
リニア中央新幹線建設を巡る環境問題などの対応策について、静岡県に対する回答をJR東海が出した。しかし、県は納得していない。なぜ両者の議論はかみ合わないのか。問題点を整理し、解決方法を探ってみたい。
双方言葉足らず……象徴的な「180基のポンプアップ」項目
静岡県側が6月6日に公開した「中央新幹線建設工事における大井川水系の水資源の確保及び水質の保全等に関する中間意見書」を提示し、JR東海に問題の解決をただした。その内容は私にもうなずける部分もあった。しかし、自然を相手に正確な予測は難しい部分もあり、過度な要求に思える部分もあった。それでもJR東海は真摯(しんし)に答えるべきだ。膨大な解決事項について、一つ一つ丁寧に処するしかない。
そこで回答案をひもとけば、意見書で示した38項目の論点について、JR東海は具体的に回答している。「説明の必要」「検討の必要」「協議の必要」などの要求については一切の異議を唱えず「説明の用意がある」「検討に同意」「協議に応じる」と回答している。詳細については公式サイトの原文を見ていただくとして、筆者は「きちんと対応したのではないか」という印象を持った。いや、ほぼ「言いなり」に等しい。
ところが静岡県としては不十分であるらしく、「従来通りの説明と変わらない」という厳しい評価だ。静岡新聞7月18日付記事では「リニア水問題『ほぼゼロ回答』 JR、静岡県意見書に従来主張」と、見出しに県関係者の「ほぼゼロ回答」というコメントを使った。これではJR東海が意見書を精査せず、静岡県の要望を無視したように見える。
なぜ両者の見解が一致しないか。その象徴的な項目を見つけた。回答書の5ページ最下段。左側に静岡県の意見がある。当初、トンネルの湧水を処理するためにJR東海は「毎時60立方メートルの処理設備(ポンプ等)が180基必要」と説明していた。しかし静岡県側は「非現実的」と断じた。JR東海が「やる」と明言した数値を信用していない。これに対して項目右側でJR東海は「毎時300立方メートルの処理設備を36基」とあらため、「トンネル構内に分散して配置する」とした。
この部分について、筆者は静岡県に質問のメールを送った。「JR東海がやるといっているわけで、なぜ非現実的とし信用しないのでしょうか」。双方に信頼関係がなければ議論が成立しない。
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