LOVOTを生んだGROOVE Xの“中の人”に聞く――イノベーションを起こす組織の法則とは(3/5 ページ)
人の“愛する力”を引き出すために生まれたロボットが88億円を調達、初回予約は即完売――。ロボットの世界にイノベーションを巻き起こしたGROOVE Xは、どんな風土のどんな組織で、どんな働き方をしているのか――。“中の人”に聞いてみた。
“まだ見ぬもの”をつくるためにGROOVE Xが重視する価値観
――GROOVE X特有の価値観はどのようなものですか?
畑中 既成概念にとらわれないこと。従来の製品イメージにとらわれず、「LOVOTで実現したいことは何だろう?」と常に問い続け、全部考える行動が、全社内でできている点が魅力だと思います。自分の守備範囲を「ここまで」と限定せずにものづくり・届ける仕組みづくりに向き合うことで、自分自身の可能性も広げられている気がしますね。
杉田 ミスが許容される文化であることも、私は素晴らしいと思っています。とにかく早くトライして早めにミスをすれば早めにつぶせる――という考え方で「失敗してもいいから試そう。そして失敗から学習して次に生かそう」というサイクルがすごいスピードで回っているんです。これまで経験した他社の風土と比べても、特にいいなと感じるところですね。
梅澤 客観的に見ても、お二人がおっしゃるようなチャレンジを推奨する文化、「仕事の領域を狭めない」というカルチャーは組織の強みになっていると思います。
杉田 ケンブリッジさんも、われわれの文化に少し似てきましたよね(笑)。もともとコンサル会社としては珍しく、(クライアントの知らないことを教えるような)「先生型」ではなく、「一緒に汗をかいてやっていきましょう」というファシリテーション型の関わりを提示してくれてはいましたが、実際に走りながら生じる難題にも「そこはうちの担当ではありません」と突っぱねるのではなく、いったん話を聞いて一緒に考えてくれるという印象が強いです。
梅澤 われわれが考える「売る仕組み」の部分も、LOVOTの開発自体がうまく進まなければまったく意味を成しませんから、領域を区切りすぎないようにしています。LOVOTのプロジェクト全体でわれわれができることがあれば、踏み込んで関わっていくべきだと考えてきました。
畑中 正式に支援が決まる前、提案書をいただく前にも、2時間のセッションを何度もしませんでした?
梅澤 そうでした。当時はまだLOVOTの詳細を明かしてもらえず、「革新的なロボットを作ります。それを売りたいんです」くらいの情報しかなかったので、核心を得るために粘りました(笑)。会議室の裏の方から、ウィーンウィーンとモータ音が聞こえてきて「何かが動いているな」と感じ取りながら(笑)。週1回ペースで数カ月通わせていただきました。
畑中 ぶっちゃけ、「提案もらうまでに、こんなに時間かかるの?」と思っていました。そして提案書をいただいた時も「リスクはあります。全力は尽くしますが、正直、この通りできるか分からないです」と。
え? と思いましたが、冷静になって社内で話すと、「1週間後の計画も見えない状態でリスクがあるのは当然だよね」と。むしろ「リスクはありません」と言い切る他社よりも安心できるのではないだろうかと考えて、支援を正式にお願いしたんですよね。
杉田 僕はその後に入社したのですが、どの局面も難題ばかりで、ここまで到達したのが奇跡と思えるくらいです。後から振り返るときれいに整ったように見えるのですが、その時々には危機感しかなくて。
梅澤 確かに難しい局面はいくつもありましたね。まず、初期につまづいたのはビジネスモデルの検討部分。「ロボット製品をサブスクモデルで販売する」という、ビジネスモデルそのものが新しいので、現状分析する材料もほとんどなく、業務フローをどう作っていくかも手探りでした。
次に迎えた難所は、先ほど話題に上ったパートナー選定。そして、プロトタイプをつくる段階もなかなかの難所でした。これらのフェーズで苦労をしながら、どうやってリカバリーするかを必死に考えた結果の積み重ねで、プロジェクトが進んできた感じがします。
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