トヨタとスズキ 資本提携の構図:池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)
トヨタ自動車とスズキは資本提携を発表した。その背景として大きいのがインド。スズキのインド戦略を振り返るとともに、提携による効果はどこにあるのかを探る。そして、トヨタとスズキとの提携の本丸は、インドでの工場共同設立にあるのではないか。
8月28日。トヨタ自動車とスズキは資本提携を発表した。
同リリースによれば、提携の目的は過去に発表済みの通り、「本年3月20日、トヨタが持つ強みである電動化技術とスズキが持つ強みである小型車技術を持ち寄り、商品補完を進めることに加え、商品の共同開発や生産領域での協業等に取り組むため、具体的な検討に着手することを公表しました」とのこと。
インドマーケットの政策変更
解説しよう。トヨタが持つ電動化技術とは、EV(電気自動車)技術とHV(ハイブリッド)技術のことで、それぞれ狙う時間軸が違う。直近はHV、中期目標としてEVだ。読者諸兄もすでにご存知の通り、スズキはインドマーケットの覇者だ。今後引き続きインドでの拡販に成功すれば現在の何倍もの台数を販売し、台数のみでいえばトヨタと争うレベルになっても不思議はない。2019年3月期の決算時のデータでいえば、スズキの国内販売は73万台。一方インドでは175万台とインドの方が圧倒的に多い。
スズキはインド政府に対して、より国情により即したHVでのCO2削減計画を長らく提言してきたが、その政策はなかなかインド環境当局の理解が得られなかった。当局は、大気汚染の深刻化に対して、よりクリーン度の高いEVを主軸に据えた法規制を進めたがってきたのである。
しかしようやくその風向きが変わった。巷間(こうかん)でうわさされてきたペースでは、バッテリーの価格低減が進まず、結局インドで普及可能な環境車は当面の間HVしかないことを、ようやく当局が認識したのだ。
もちろん政府側もスズキも長期的にEVの普及を諦めたわけではないが、今目前にある環境問題に対して、価格に難のあるEVに絞った取り組みでは、むしろ既存の内燃機関からの脱却が進まず、環境の悪化を食い止められない。EVがいくら素晴らしい性能であっても、普及しないことには効果は出ない。そこでコストが比較的内燃機関に近いHVで、ステップを踏みながら環境対策をしていく形にようやく落ち着いた。
関連記事
- ようやく発表されたトヨタとスズキの提携内容
ここ数年、トヨタはアライアンス戦略に余念がない。自動車メーカーやサプライヤーにとどまらず、IT業界やサービス産業、飲食業など異分野との協業関係を構築している。こうしたトヨタの変化に敏感に反応したのがスズキの鈴木修会長だった。 - スズキ社長「重く厳粛に受け止める」、燃費・排ガス不適切検査で
燃費・排出ガスの抜き取り検査で無効な測定を有効と処理していた問題が発覚したスズキの鈴木俊宏社長が会見した。 - 自動車メーカーを震撼させる環境規制の激変
「最近のクルマは燃費ばかり気にしてつまらなくなった」と嘆いても仕方ない。自動車メーカーが燃費を気にするのは、売れる売れないという目先のカネ勘定ではなくて、燃費基準に達しないと罰金で制裁されるからだ。昨今の環境規制状況と、それが転換点にあることを解説する。各メーカーはそのための戦略を練ってきたが、ここにきて4つの番狂わせがあった。 - スズキはなぜトヨタを選んだのか?
先日トヨタとスズキの提携に関する緊急記者会見が開かれた。両社トップがその場に並び立った。この提携の背景にあるものとは? - スズキが新工場を作る意味――インド自動車戦争が始まる
1月末、インド・グジャラート州で新工場の定礎式を行ったスズキ。実は同社は1980年以来、35年もの長きにわたりインド市場に取り組んできた。そのスズキがこのタイミングで新工場を設立する意味とは……?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.