トヨタとスズキ 資本提携の構図:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/5 ページ)
トヨタ自動車とスズキは資本提携を発表した。その背景として大きいのがインド。スズキのインド戦略を振り返るとともに、提携による効果はどこにあるのかを探る。そして、トヨタとスズキとの提携の本丸は、インドでの工場共同設立にあるのではないか。
補助金政策の枠組みがHVへと拡充されたことによる効果は、すでに出始めている。16年、17年と5%台で足踏みしていたスズキのインド販売車両台数におけるHVの比率は、18年に8.5%に伸びた。台数ベースでいえば8万5000台から14万9000台と急激な成長を遂げているのだ。
成長速度競争
需要が旺盛で、作っても作ってもクルマが足りないインドマーケットには、今世界中の自動車メーカーが進出し、激しいつばぜり合いを演じている。スズキは17年にインドのグジャラート州で新工場を立ち上げたが(15年2月の記事参照)、19年1月には第2工場を稼働させている。それだけ市場の吸収力が旺盛なのだ。激化する競争の中で、低排出ガスの優遇を受けて戦いを有利に進めるためには、環境技術はクラス別に複数あった方がいい。環境技術は高性能なものほど高い。だからクラスに応じた性能と価格のものを用意しないと売れない。
インド国内において、スズキはガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、CNG(天然ガス)エンジンにHVと多様なパワーソースを持っている。厳密にいえばHVはガソリンとディーゼルの両バージョンがあるので5種類にも及ぶ。
日本の状況とは実はかなり違う。スズキの日本でのラインアップは、軽自動車用マイルドHVの「S-エネチャージ」、そのS-エネチャージの強化版としてA、Bセグメント級向けのマイルドHV、同クラス用のストロングHVの3種類がある。つまり日本とインドの両国で販売されているのは今のところ、A、Bセグメント用のガソリン・マイルドHVだけである。
考えてみれば理由は明確で、軽自動車規格がない環境で見れば、なにも余分にお金を払ってアルトのマイルドHVを買わなくとも、その価格差で一つクラスを上げた方が室内も広く、総合的に性能もいい。インドの小型車税率規定の上限を見定めて作られたバレーノまでなら、大して税金の差は大きくないからだ。そういうマーケットでは、同様にA、Bセグメント用のストロングHVもクラスに対してコストが高すぎるので投入されていないのだろう。
しかしやがて市場は成長する。そもそもスズキは、各国自動車メーカーの進出ラッシュが起きた97年頃のインドでは、軽自動車のアルトをベースに排気量を800ccに拡大したモデルで、65%という強烈なシェアを持っていた。ところが自動車の自由化によって世界中から大挙してコンペティターが乗り込んで来たため、一時シェアを40%まで落とし、現在はそれを再び50%まで巻き返している。
「なんだピークアウトしたのか」と考えるのはちょっと実情と違う。クルマの購入台数がとてつもない勢いで伸びた結果、スズキの生産体制がそもそも市場の成長に追いつかなかったのだ。つまり65%から40%に落ちる間も販売台数はうなぎ上りに増えている。にも関わらずシェアを落として来たわけだ。先進諸国の成熟マーケットを見慣れているとなかなかイメージしにくいが、その驚異的な成長がインドマーケットの魅力だ。
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