メディアドゥの社長はなぜ、マイノリティーの登用を恐れないのか 情シス部長に50代半ばの女性、ベトナム人採用の背景(5/5 ページ)
情シス部長に50代半ばの女性を登用し、ベトナム人エンジニアを採用する――。メディアドゥホールディングスの社長、藤田恭嗣さんはなぜ、マイノリティーの登用を恐れないのか。
女性が自信を持って役職を担うのに欠かせない「目的思考」の上司とは
和田: ここからは、情報システム部の部長として入社した河野さんにお伺いします。河野さんはかつて専業主婦をしていて、そこから仕事を再開して上場企業の執行役員にまでなられたんですよね。その原動力はなんだったのでしょう?
河野: 短大を卒業して会社に入ったのは男女雇用均等法の前の時代でしたから、入社5年で子どもが生まれることになって辞めたときは、それが普通のことだと思っていました。でも社会から離れていると、そのことに対する負い目みたいなものも感じて、再び働きはじめました。ブランクを取り返すためには人一倍、頑張る――。そんな意識でやってきました。
和田: メディアドゥ社長の藤田さんは、「一歩引いてしまう女性の意識を変えなければいけない」とおっしゃっていました。河野さんが以前の会社で初めてIT部門のマネジャーになられた時は、心理的なハードルがありましたか?
河野: なかったです。昇進するときのパターンには、今の役割を完全にできるようになったから次に行くという「卒業型」と、上のレベルの仕事ができるようになったからその役職に就くという「入学型」がありますよね。
私は後者で、すでにその役割を担っている状態だったので、特に不安はありませんでした。ただ、初めて執行役員になったときは、「私でいいのかな?」という戸惑いはありましたね。
和田: どういう経緯だったのですか?
河野: もともと情報セキュリティの責任者をしていて、必要なスピード感で意思決定をするには、自分が決裁権限を持たないといけないと思ったんです。それを社長に話したら、「だったらやってよ」といわれて。
和田: 目的を達成するためには役員になった方が良かったということですね。
河野: そうです。それなのにどうして、「私でいいのかな」と感じたんでしょうね(笑)
和田: 今まで関わってこられた部下や同僚の中にも、力はあるのに自信のない女性はいましたか?
河野: たくさんいましたよ。
和田: そういう方々と河野さんと、どこに違いがあるんでしょうね。
河野: 私が優秀だなと思う女性は、最初は一歩引いた感じがあるんですけど、一緒に仕事をしているうちにだんだんと自信が出てきます。自分では分かっていないんでしょうね。
和田: 上司の存在が大きいのかもしれませんね。藤田社長もそうですし、私を役員に引き上げた小池(Talknote代表取締役 小池温男氏)も目的思考で、人のことを性別に関係なくフラットに見るところがあります。そういう上司がいるのはありがたいです。
河野: 本当にそう思います。現場の方々から推されて――ということはなかなかないですよね。私がヤフーの開発部長になったのも上司が認めてくれていたからだし、前職の上司も「これをやるならこの人だ」と考える目的思考の人だったから、私を執行役員にしたんだと思います。
組織をリードするには、まず自分を知らなければならない
和田: メディアドゥに入ったのは良い出会いがあってのことで、転職活動をされていたわけではないんですよね。
河野: そうなんです。私は、安定した組織でオペレーションを回すのでもなく、イチから組織を立ち上げるというのでもなく、立ち上げ後のごちゃごちゃしているところをきれいにしていくような仕事が得意なんですよ。前職で仕組みを整えて、ちょっと仕事に物足りなさを感じるようになっていたところに声が掛かって「うわ、行きたい!」と思ったわけです。
和田: 女性で50代だと、普通の転職活動は厳しいというお話もされていましたね。
河野: そう聞きました。男性でもある程度の年齢を過ぎると表玄関は閉まってしまうと。それは、変えていきたいですよね。私は“リファラル”という裏玄関から入ることができてラッキーでしたけれど。
和田: 裏玄関から入るにも、かなりの実績や人脈がないと難しいですよね。
河野: そうですね。だから会社の中に閉じこもっていないで外に出て行くことは大事だし、少しでもチャンスがあったら「私なんか」と言わずにどんどんやってみたらいいと思うんですよ。
和田: 藤田社長のお話からも、視野を広げることが大事だと感じました。会社の中だけでなく社会に出たときに、自分がどれだけ役に立てるのか、何を楽しめるのかを考えながら、主体的に自分の軸を作っていかなければ、と。
河野: かつて私も、会社の仕事が忙しすぎて世の中に全く目が向いていない時がありました。そんな状態で本部長として明確な失敗をして、「これはいけない」と思ってリーダーシップ研修に行き、そこからすごく変わったんです。研修では、まずは自分、次に組織の人たち、その次に社会のことを考える、ということを教わりました。
和田: まずは自分を、ということですね。
河野: そう。自分は何になりたいのかとか、自分は何のために仕事をしたいのかということが分かっていない人に、組織をリードできるわけがない、ということです。
和田: 「自分の軸を持つ」という、藤田さんのおっしゃっていたことと重なってきますね。会社のなかでも、自分の意思を問われることが多いのではないですか?
河野: そうです。でも、すごく難しいことですよね。私も完全にできているわけではありませんが、現場の人たちを引き上げて藤田さんの思いをつなぐ役割をできたら、と思っています。
【企画・構成:後藤祥子 執筆:やつづかえり】
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