松戸市にあるパン屋で、なぜお客は1800円も使うのか:水曜インタビュー劇場(焼きたて公演)(4/6 ページ)
「パン好きの聖地」と呼ばれている店が、千葉県の松戸市にあるのをご存じだろうか。「Zopf(ツオップ)」である。1個のパンを求めて、朝から行列ができているわけだが、なぜ人はここの商品を食べたいと思うのか。シェフに話を聞いたところ……。
生産性が落ちても、お客さんのことを考える
伊原: オープン当初、店内にフライヤーがなくて、調理用のボールを使ってカレーパンをつくっていました。だんだん売れるようになって、フライヤーを導入しました。そのフライヤーは一度に12個つくることができるのですが、店で10個しか売れなければどうするのか。店のスタッフは怠ける気がなくても、ついつい12個つくろうとしますよね。目の前で12個つくれるんだから。そうなると、どうしても余ってしまうので、揚げたてのカレーパンを提供できなくなるケースが出てきました。
このままではいけないということで、フライヤーを捨てたんですよ。再び、店内にボールを持ち込んで、それでつくることに。フライヤーは一度に12個つくれるけれども、ボールは6個だけ。半分しかつくることができないので、揚げる回数は倍になる。生産性は落ちてしまいましたが、それでもお客さんのことを考えて、ボールで揚げることにしました。
土肥: 揚げたてか、揚げたてでないか、どちらがおいしいか。間違いなく、揚げたてですよね。天ぷら屋さんで、冷めたエビフライが出てきたら、クレームを言いたくなるほど、揚げたては大事。
伊原: 生産性は落ちたものの、その後、お客さんが増えていき、フライヤーを再び導入することに。結果、いまでは1日に700個ほど売れるにようになりました。
でも、考えてみると、マーケティングのセオリーとは真逆のことをやっているんですよね。コンサルタントは「商品は絞りましょう」「お客さんのピークタイムをつくりましょう」などと言いますが、ウチがやっていることは違う。商品はどんどん増やして、いまは300種類ほど。お客さんのピークタイムは1日中に。
土肥: 店内はそれほど広くないのに、パンがたくさん並んでいる。入店できるのは8人までなのに、なぜ300種類も販売しているのでしょうか?
伊原: 「300種類もつくっている」と聞くと、頻繁に新商品を出しているのかなあと思われたかもしれませんが、そうではありません。年に1〜2品なんですよね。たったそれだけですが、一度つくったモノは基本的に販売し続けています。なぜか。「もう一度、あの商品を食べたいなあ」と思って、来店したときに「終売しました」と言われたら残念ですよね。そうなると、「このお店には、もう行かない」と思われるかもしれません。そうした気持ちにさせてはいけないので、原材料が調達できなくなったなど何らかの事情がない限り、一度つくった商品は出し続けています。
土肥: とはいえ、なかなか売れない商品もありますよね。そうした場合はどうしているのですか?
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