京急踏切事故で垣間見えたトラックドライバー業界の「構造的な闇」とは:進む高齢化、超過酷な労働環境(2/4 ページ)
電車の乗客ら35人が負傷、トラック運転手1人が死亡した京急踏切事故。その背景に筆者が垣間見たのは極端に高齢化が進むトラック業界の闇だった。データや現場取材、自身のドライバー経験を踏まえ迫る。
働き方改革は遠く 過酷・薄給な労働環境
高齢のドライバーが第一線に立つ一方で、業界にはなかなか若手が入ってこない。その大きな要因と考えられているのがドライバーの過酷な労働環境と、それに見合わぬ低い給与水準だ。
厚生労働省により策定されている「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」、いわゆる「改善基準告示」によると、トラックドライバーの拘束時間は1日13時間が基本だ。状況によっては上限16時間まで認められている(15時間超の拘束は週2回まで)。年間ベースでいうと1カ月で原則293時間であり、労使協定がある際は1年のうち6カ月までは1カ月320時間の労働が認められている。他産業と比べて労働にかかる時間が非常に長いのだ。
とりわけ長距離のトラックドライバーの拘束時間は長く、関東から関西、中国、九州地方を回るとなれば、車中泊が続き1週間家に帰れないといったケースも珍しくない。
業界の労働時間の長さは、4月に施行された「改正労働基準法」、いわゆる「働き方改革」にも反映されている。他の業種の時間外労働上限が720時間へと順次適用されている中、自動車運転業務においては、「人手不足と過酷な労働環境の改善に時間を要する」という判断から、年間960時間と他業種より規定時間が長い。適用までにも24年までの5年間という猶予が与えられたほどだ。
その一方、賃金においては厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると、トラックドライバーの年間所得額は、全産業平均491万円と比較して、大型トラック運転者は454万円と約1割低く、中小型トラック運転者は415万円と約2割低い。
過酷な労働のうえ、低賃金。人手不足に悩む多くの運送業者からは、「こうした労働環境を敬遠し、体力のある若手ドライバーがなかなか定着しない」と嘆く声が上がるものの、もはや自分たちの立場ではどうすることもできないのが現状なのだ。
もう1つ、若手が入ってこない要因として「運転免許の改定」を挙げる関係者も少なくない。現在、中長距離を走るのに重宝されているトラックの1つに4トン車というものがあるが、旧免許制度の普通免許なら運転できたこの4トン車が、免許制度の改定により中型免許がないと運転できなくなったのだ。
中型免許を取得するには、普通免許取得から2年以上の経験が必要となる。そのため、高校を卒業して就職しようとする若者が、中長距離を担う運送企業に入ってこなくなったという。
また、こうした中型車を取得するには無論、教習所への再入所が必要となる。免許取得費用を支給してくれる会社もあるものの、その時間と手間を考えれば、やはり若者にとって物流業界への就職はハードルが高いのだ。
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