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「日本経済が成長しないのは、中小企業が多いから」は本当かスピン経済の歩き方(2/6 ページ)

少子化に歯止めがかからない。出生数は90万人割れが確実となっていて、これは推計よりも早いペースだという。このままだと日本経済がさらに悪くなりそうだが、“治療法”はあるのだろうか。筆者の窪田氏は「中小企業改革」を挙げていて……。

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生産性向上とは「数字」の戦い


国運の分岐点 中小企業改革で再び輝くか、中国の属国になるか』(デービッド・アトキンソン/講談社)

 なぜこの人は、そんな”弱い者イジメ”を呼びかけるのだ、と怒りに震える中小企業経営者も多いかもしれないが、そこにはちゃんとした科学的根拠がある。

 「伝説のアナリスト」として知られるアトキンソン氏は、これまで日本経済を30年にわたって分析してきた。そこで、低成長、低賃金、低生産性、人口減少など、日本のさまざまな問題をつきつめていくと、結局いつも「非効率な産業構造」に突き当たったという。それを同書の中ではこう指摘している。

 『それは「中小企業が多い」ということです。正確に言うと、中小企業の中でも非常に小さい企業で働く人の割合が高いのです。(中略)この比率が日本では異常なほど高いのです』(P.67)

 と耳にしても、「何が異常だ、小さな会社が頑張っているのが日本の強みだ!」とキレる人たちのお気持ちはよく分かる。ご存じの方も多いだろうが、日本の中小企業は、全企業の99.7%を占めて357万社もある。こういう圧倒的多数がゆえ、「日本の技術力を支えているのは小さな町工場だ!」「中小企業が元気になれば日本経済は復活!」なんて話が長らく「日本人の常識」となってきたのだ。

 ただ、アトキンソン氏の分析を聞くと、それが必ずしも科学的な裏付けの話ではないことが分かる。例えば、同書の中にはOECDのデータを基にして、主要先進国の「従業員20人未満の企業で働く人の割合と生産性」と「従業員250人以上の企業で働く人の割合と生産性」が比較されている。

 まず、「従業員20人未満の企業で働く人の割合」が高い国の面々を見てみると、日本(20.5%)、スペイン(27.3%)、イタリア(30.9%)、ポルトガル(32.1%)、ギリシャ(35.3%)という感じで、そろいもそろって生産性の低い国が並んでいる。

 次に、「従業員250人以上の企業で働く人の割合」が50%から30%という水準の国を見てみると、アメリカ、ベルギー、ドイツ、オーストラリア、デンマーク、フィンランドと日本よりもはるかに生産性が高い国が並ぶ。ちなみに、日本、ギリシャ、ポルトガルは「従業員250人以上の企業で働く人の割合」は20%以下となっている。

 ただ、これは冷静に考えてみれば当たり前で、大企業で働く人は、20人未満で働く人と比べて、高賃金であるケースが多い。人材育成やスキル教育も行われるので、より賃金の高い職場へとステップアップもできる。このような人の割合が増えれば増えるほど、国としての賃金も上がり、生産性も向上していくというわけだ。

 つまり、昨今騒がれているような「社員のモチベーションをあげて生産性向上だ!」「働き方改革で生産性アップ!」みたいな話はB29に竹槍で突っ込むような根性論に過ぎず、生産性向上とはとどのつまり、「企業の規模を大きくして、賃金を上げていく」という「数字」の戦いなのである。

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