「日本経済が成長しないのは、中小企業が多いから」は本当か:スピン経済の歩き方(6/6 ページ)
少子化に歯止めがかからない。出生数は90万人割れが確実となっていて、これは推計よりも早いペースだという。このままだと日本経済がさらに悪くなりそうだが、“治療法”はあるのだろうか。筆者の窪田氏は「中小企業改革」を挙げていて……。
生産性向上の道のりはまだまだ遠い
ここから脱却をするには、これまでのような「下」に押し付けるやり方は通用しないのは明白だが、一部の専門家の方はいまだにこれまでのやり方に固執している。経済とはコストを「下」に押し付けることで成り立つという考えにとらわれているのだ。
先日も、ある評論家センセイが、「最低賃金を上げると、低賃金でしか働けない人たちが地方に溢れて日本はおしまいだ」みたいなノストラダムスの大予言みたいなことをおっしゃっていた。
この方のお考えでは、最低賃金で働く労働者は、ロクにスキルがないので今働いている中小企業をクビになったら、金輪際仕事に就くこともなく永久失業者になるそうだ。だから、中小企業経営者を追いつめてはいけない。これまで通りスキルのない労働者を安い賃金でコキ使わせてやることが、長い目で見れば、日本経済や地方経済のためだという。
要するに、我々がこれまで通りの生活をキープするには、先進国のなかでも際立って低い賃金でも文句を言わずに働く「低賃金奴隷」が必要ですよ、というのである。
先日、ネット掲示板で都内のメーカーに12年勤めていて、手取り14万円だと嘆くアラフォーが注目を集めた。また、国税庁の調査では、非正規社員の昨年の平均給与は179万円。先ほどの評論家の方のロジックでは、このような方たちはその賃金に見合うだけのスキルしかないのが問題であって、こういう人たちの賃金を上げていくのは、日本経済をダメにする「愚策」ということになる。
アトキンソン氏のデータに基づく分析と比べると、「欲しがりません、勝つまでは」に通じるド根性経済論のような気がするのは、筆者だけだろうか。
いずれにせよ、この国にはかなりの割合で、「日本経済のためには能力ない奴は低い賃金で働け! 仕事があるだけでも幸せと思え」という人たちがいるということだ。
日本の生産性向上の道のりはまだまだ遠い。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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