それでもオンラインサロンが受ける理由――「デジタル選民ビジネス」という甘いワナ:有名人サロンやN国も踏襲(3/3 ページ)
有名実業家やタレントなどが主催するオンラインサロンがいまだに盛況だ。筆者はその裏に「デジタル選民意識」の利用があるとみる。あの「N国」も巧みに操るそのビジネスモデルとは?
参加メンバーは「物語の一部」に
次に「直接参加の機会」ですが、ある人気オンラインサロンでは、オーナーであるタレントが催すアート系のイベントにサロンメンバーが「ボランティアスタッフ」として手伝うことができる仕組みになっています。
こう説明するとすぐに「やりがい搾取」といった批判が聞こえてきそうですが、メンバー本人の「自尊心」がそこそこ満たされ、アイデンティティー活性化の一助になっているのであれば、他人がとやかく言う筋合いはないようにも思えます。
世の中にはお金を払ってでも「ある経験」をしたいという人々は必ずいます。そこには自分が尊敬している人物の役に立ちたい、参加することで成長したい等々の思いがあります。これをちゃかすのは簡単ですが、あらゆる企業活動、グループ活動に潜在している心理でもあります。
N国党の場合、大げさな言い方をすれば、NHK撃退シールの発送作業などの一つ一つが、巨大な既得権益との戦いへと連なる行為になり得ます。
これはいわば「物語の一部」になることでもあります。実は、これが大義なき時代の「魅力的なミッション」として妖しい輝きを放ってくるのです。
一連のポイントについて、こうしたオンラインサロンをコミュニティー運営に応用できるビジネスメソッド的な側面から見ると、「一定の支持が得られる共感性の高い物語」を設定し、「自ら決死の場面を仕込む周到さ」を忘れず、メンバーを「物語の中に配役する仕組み」になるでしょう。
当然ながらそこには「嫌われキャラ」のサロンオーナーが不可欠です。ここでは神話学者のジョーゼフ・キャンベルの言う「神話の英雄」がヒントになります。
「神話の英雄は、日常生活を送る小屋や城から旅立ち、誘惑されたり、さらわれたり、あるいは自発的に進んだりして、冒険の境界へ向かう。そしてそこで、境界を守っている影の存在と出会う。英雄はその力を打ち負かすかなだめるかし、それから生きたまま闇の王国に入るか(兄弟の戦い、龍との戦い、供物、呪文)、敵に殺され死の世界へと降りていくか(四肢解体や磔刑)する」(『千の顔をもつ英雄〔新訳版〕』早川書房)……。
つまり、これらの「振れ幅のあるドラマ」に付き合えるかどうかが、究極的にはウチとソトを確定してしまう一線になります。そういう意味でマイノリティー感の少ない、ハードルの低い「ゆるいサロン」はかえって難があるかもしれません。わざとハードルを高くしてサロンに入ることに若干の緊張感をもたせるぐらいが良いのかもしれません。
いずれにしても「大きな物語」が失われた現代では、個人個人が「自分の物語」を作るしかありません。うまく作ることができなければ「誰か」の力に頼ることになります。恐らく収益性のある「デジタルコミュニティー」の代表格であるオンラインサロンは、そんな時代における「物語提供ビジネス」のうちの1つに数えることができるでしょう。
真鍋厚(まなべ あつし/評論家)
1979年、奈良県天理市生まれ。大阪芸術大学大学院芸術制作研究科修士課程修了。出版社に勤める傍ら評論活動を展開。専門分野はテロリズム、ネット炎上、コミュニティーなど。著書に『テロリスト・ワールド』(現代書館)、『不寛容という不安』(彩流社)がある。
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