クルマの「つながる」が分からない:池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/6 ページ)
「コネクティッドカー」つまりつながるクルマとは何かを、明瞭にスパッと説明できる人はほとんどいない。それはなぜか。音声認識を使って音楽を流せるというようなエンターテインメント要素の話と、車車間通信、車路間通信を使って安全性を向上させようという骨太の話が、混ざって語られるところに混乱の元がある。
ITSから始まったつながるクルマ
まずはトヨタに範に取りながら、これまでの流れを追いかけてみよう。狙いはいろいろと肉付けされていく過程をみることで、本来の機能は何だったかを洗い出すことだ。
おそらくその原点は、国土交通省が主導したITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)だ。1996年に関係5省庁が主導して始まったこの計画は、2004年に日本ITS推進審議会議が発足して本格的にスタートした。
ITSとは「人と道路とクルマの間で相互に情報のやり取りを行い、事故や渋滞、環境問題を解決」しようとするものだ。すでにこのスタートの時点で、「事故、渋滞、環境問題」と3つの目的が設定されており分かりにくくなっているが、ベースラインは、クルマとクルマ(車車間)、あるいはクルマとインフラ(路車間)の間で情報をやり取りして、安全性を向上させることにあるだろう。
そして安全向上によって、道路に対する流量能力を上げる(例えば指定速度の向上)ことが可能になって、渋滞や環境負荷が減るという順番になるはずだ。安全より効率や環境を優先するのはナンセンスだからだ。
手法としてはいろいろあるが、やはり基本となるのは交差点での交通整理だと考えられる。通常、ドライバーが信号を目視して停止や発進の操作を行うが、信号機の付帯設備からデータを発信し、ITS対応ナビに組み込まれた受送信機でデータのやり取りを行う。クルマの側が自動判断して停止や加減速を行えば、信号が赤に変わるまでの残時間なども共有でき、より高い速度からも安全に停止できる。このようにして、上述した3つの目的が達成可能になる。
問題は普及だ。多くのITS未対応車の中にごくわずかのITS対応車を混在させたところで制御できることは少ない。未対応車がボトルネックになってしまうからだ。加えて路車間の設備が整っている交差点は、極限られたエリアにしかない。
実際ITS対応の市販車はすでに存在し、対応車間では、クルーズコントロール(クルコン)の際に、先行車の運転情報を受信することもできている。例えば先行車がアクセルをオフにしたことは車車間通信を経由して、自分のクルマに伝えられるから、クルコンのレーダーが車間距離の変化を捉えるより早いタイミングでの車速制御が可能になった。
ITSが普及すれば、先行車に対する過剰減速で発生するサグ渋滞なども防止できるだろう。厳密にいえば安全性は向上しているのだろうが、実感できるメリットはさして多くない。サグ渋滞のようなマクロ交通の話を別にすれば、少しだけ車間距離を余分に取れば済む話だ。
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