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村上世彰が金融教育を通じて伝えたいこと村上世彰N高特別授業【後編】(1/3 ページ)

会社の研修の一環として「金融教育」を導入する企業が増えている。社員一人ひとりがお金の知識を付け、家計を安定させ、仕事に集中できる環境を作ることが経営課題にもなっている。そんな中、村上世彰氏は自ら金融教育にかかわり、N高投資部での講義に取り組んでいる。村上氏が高校生に金融教育をする背景、若い時からお金と向き合う意義に迫るとともに授業の内容もお届けする。

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 角川ドワンゴ学園が運営する「N高等学校」(N高)。プログラミングや文芸小説創作、DTM・ボーカロイド、デザイン制作などといった個性を伸ばす教育に定評があるが、7月より「投資部」を設立し、金融教育にも力を注いでいる。

 特別顧問は、旧「村上ファンド」代表で、投資家の村上世彰氏が務める。村上氏による初の授業が7月12日、N高代々木キャンパス(東京都渋谷区)で開かれた。

 生徒は、通学・インターネットの双方合わせて50人が受講。270人の応募のうち、書類選考の末、5倍以上の倍率をくぐり抜けた精鋭達だ。この生徒達一人一人が、村上氏が運営する「村上財団」より20万円を給付され、投資の勉強に充てる。

 なぜ金融教育に注目が集まっているのか。最近では会社の研修の一環として「金融教育」を導入する企業も増えている。社員一人ひとりが、お金の知識を付け、家計を安定させ、仕事に集中できる環境を作ることが経営課題にもなっている。また、「お金」を直接やりとりしないキャッシュレス化も進んでいる。こうした仕組みと接する人々は低年齢化しつつある。「お金」の役割や価値が次第に見えにくくなるなか、学校教育の中でも子どもたちに「お金」の大切さを教えていく必要性が指摘されている。

 そんな中、村上氏は自ら金融教育にかかわり、お金に振り回されない人生を送るために、若いうちにお金と真剣に向き合う機会を子どもたちに持ってもらいたいという想いから、N高投資部での講義に取り組んでいる。前編記事「村上世彰が「金融教育」に取り組む狙い」に続き、村上氏が高校生に金融教育をする背景、若い時からお金と向き合う意義に迫るとともに授業の内容をお届けする。

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村上世彰(むらかみ・よしあき)投資家。1959年、大阪府生まれ。83年、通産省(現・経済産業省)に入省。国家公務員としてコーポレート・ガバナンスの普及に従事する。独立後、99年から2006年まで投資ファンドを運営。「物言う株主」としても注目を集めた。現在は、シンガポール在住の投資家として活動する。著書『生涯投資家』(文藝春秋)、『いま君に伝えたいお金の話』(幻冬舎)など。N高投資部の特別顧問に就任。60歳

村上氏が語る人生最大の失敗

――株を実際に売買すると、得をすることだけではなくて、損をすることもあると思います。損をしたときに一番先に取らなければならない行動は何ですか。

 まず悔しがる。次に考える。みんな「こうやったら儲(もう)かるんじゃないか」と思って投資をしているわけですが、どうして自分がそう考えたのかを振り返ることが大事です。まず感情的に悔しがってくださって結構です。大事なのは、その次に、なぜうまくいかなかったのか、どうしてそうなったのかという理由を自分なりにきちんと考えて見つけること。それが重要です。

――村上さんは投資をするのに、一つの会社について、どんなことを調べますか。

 どれぐらいの規模で投資するかにもよりますが、会社が出している情報を全て見るのはもちろん、場合によっては会社の経営陣に会いに行ったり、IRに電話をしたりします。その業界のことや関連する分野の動向なども全て調べます。僕だけではなく、チームで取り組むので、それぞれが徹底的に調べますが、常に見込めるリターンと、時間も含めて掛けるコストは考えています。

 今回の場合は、この1年間の中で、投資先の会社を理解することが、結果的に広い意味での勉強になるので、なるべく多くの時間をかけて楽しんでください。そこの2人に質問。もうIRに電話してみた?

――していないです。

 ぜひ電話をしてみてください。銘柄を選んだら、その会社の開示情報やWebサイトにIRの電話番号が書いてあります。特に学生さんだったら、IRの人も喜んでくれて、丁寧にいろいろと教えてくれるかもしれない。ぜひ電話して、会社のことをいろいろと聞いてみてください。電話をしてみると、雰囲気も含めてその会社のことがよく分かると思います。

 株主も、株主候補も、そこにアクセスする権利があるのですから、電話して自分の疑問点をぶつけたりして、会社のイメージをつかんでください。

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――村上さんのこれまでの一番の失敗例を聞きたいです。そこからどんなことを学びましたか。

 株で言うと、「これはいいな」と思ったのに、大きく損をしたことがあります。理由は、その会社が世界の情勢に大きく影響を受ける事業を行っていたから。広い意味では、全ての会社がそうなのですが、中には、市場の動きに業績が直撃される、またその影響がとても大きいことがあります。その時は、世界の流れというような、自分がコントロールできない大きなものに対しては投資をしてはいけないな、という教訓を得ました。

 もう一つ、株じゃないんですけど、僕が人生の中で一番大きな損をしたのはギリシャ国債です。EUの加盟国で、国自体が、国債が破綻するなんてことがあるわけがない。絶対にこの国債は戻ってくると思って、僕は6年前に集中投資をしました。その後、ギリシャは破綻宣言をしました。100の価値のものを僕は40で買って、最終的には「20で引き取るから80はチャラね」と国が宣言しました。

 この時の僕の大きな失敗は、自分がギリシャにいないにもかかわらず、ギリシャはEUの加盟国なんだから、まさか破綻なんかしないと過信してしまったことです。自分の目で確かめたわけではないのに、やってはいけなかった。皆さんもそういう大きな失敗をこれからしていくのかもしれませんが、それは学ぶチャンスでもあると思います。

――日本の会社のことはある程度知ってはいるんですけど、海外の会社の情勢には疎いです。海外の会社に投資をするときに、注意しないといけないこと、日本とは何か違うことはあるのでしょうか。

 いろいろな経緯で海外の会社に10社ぐらい投資はしていますが、基本的に僕は海外はやりません。なぜやらないか。その理由は「分からないから」です。僕自身もこれだけ海外に長く住んでいますが、それでも自分にとって日本語のほうが分かりやすいし、企業へのアクセスも日本人としてやりやすい。「分からないことはやらない」。これは、重要なことだと僕は思う。

 それからみんなが何を勉強したいのか。好きなことを勉強したほうが絶対によくできるようになる。嫌いなものは難しい。だから自分が好きで得意なものにぜひ投資をしてほしいと思います。

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