じぶん銀行社長に聞く「老後2000万円問題」――顧客第一主義を貫き資産運用を“再発明”する:将来的にはパーソナライズした商品を実現(4/4 ページ)
金融庁の「老後資産2000万円」報告書がきっかけとなり、日本でも資産運用への関心が高まっている。一方、資産運用を始めようとしても、「投資は危険」「金融機関にだまされる」などといったネガティブな印象を抱いている人が多いのもまた現実だ。KDDIと三菱UFJ銀行が共同出資して設立したインターネット銀行・じぶん銀行の臼井朋貴社長にインタビューし、同行が金融機関として個人の資産運用をどのようにサポートしようとしているのか、そのビジョンを聞いた。
顧客第一主義を貫き通す
――「トップインタビュー」というこのサイトでは経営者の働き方について、いろいろな方に取材をしているのですが、臼井社長の仕事上の失敗経験とそこから学んだことを教えてください。
新卒で第一勧銀に就職したのですが、みずほとして3行が統合すると発表されてから、フィナンシャルホールディングスの下に3つの銀行がぶら下がっている状態が2年ぐらい続いていました。2000年ちょっとすぎの頃だと思うので、ちょうどITバブルの時ですかね。当時、所属していたチームでインターネット銀行を作ろうみたいな話が出て、海外の事例を研究したんです。いろいろと調査した結果、「支店方式にしよう」となり、金融ポータル、ECコミュニティー、バンキングという3つの軸で事業を進めることになりました。銀行法の関係で前の2つ(金融ポータル、ECコミュニティー)は別会社にしなくてはいけなかったんですが、32億円を集めて、特許まで取って企画を進めました。
でも、いざ始めようとすると、サイトを作るにしても3行の主導権争い。広告会社はどこを使うのか印刷会社はどうするか――。内部の都合ばかりで具体的なことは全然進まず、コストだけがかさんでいきました。そして、サービスを開始してもダメでした。開始後、わずか半年でダメになりました。人生最大級の失敗です。普通の会社だったら倒産していたでしょうね。
――規模の大きな失敗だったわけですね。そこから何を学ばれましたか?
何で失敗したのかを考えましたが、理由は非常にシンプルでした。私たちの議論にはユーザーの目線がなかったんです。何を考えるにしても事業者目線。事業者のエゴだけだったんです。身内や大事なパートナーばかりを意識していて、議論の中にユーザーの観点がなかった。そこで、「顧客を意識する」という当たり前ですが、最高の学びを得ました。
じぶん銀行内でもサービス開発やリニューアルをする際には社員と一緒に議論します。自分の意見を押し付けることはなく、自由に議論します。全員で議論するからこそ、みんなが腹落ちして実行してくれる。ビジネスなので、考え抜いたからといって、必ず成功するわけではない。ですが、結果的に失敗しても、しっかりと全員で議論できていれば結果は「まあ仕方ない」となるわけです。
あとは、チャレンジをし続けるということですかね。大企業は前例追従主義のところが多いですが、そういうのが大嫌いです。いくつか道があるのなら、一番険しい道を選んでいきたいと思っています。その道は危ないのかもしれないけど、おいしい食べ物があるかもしれないと思ってしまいます。
あと、最後に1つ。それは諦めないということです。ビジネスの世界では諦めない人、負けを認めない人が勝つと思っています。私たちも「勝つまでやる」という気持ちで事業を推進していきたいと思います。
お知らせ
新刊『親子ゼニ問答』(角川新書)が発売されました!
「老後2000万円不足」が話題となる中、金融教育の必要性を訴える声が高まっている。
2019年10月には消費税増税となり、ますますお金の知恵が必要となっている。しかし、日本人はいまだにお金との正しい付き合い方を知らない。
経済アナリストの森永親子が、森永家での4世代にわたる実証・実験を交えながら、生きるためのお金の知恵を伝授する。新しい金融教育の教科書の登場だ。
著者プロフィール
森永康平(もりなが こうへい)
株式会社マネネCEO / 経済アナリスト。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。
現在は複数のベンチャー企業のCFOや監査役も兼任している。
著書に『親子ゼニ問答』(角川新書)。日本証券アナリスト協会検定会員。Twitterは@KoheiMorinaga。
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