「アニメの絵を自動で描く」AIが出現――アニメーターの仕事は奪われるのか?:ジャーナリスト数土直志 激動のアニメビジネスを斬る(4/5 ページ)
手描きが主流だったアニメ制作でも自動化が到来。ソフトやAIが自動で描画や彩色する技術開発が進む。果たして、人間のアニメーターは不要になるのか、最前線を追う。
むしろ「面倒な作画」ばかりが人間の仕事に……
多くの産業においてAI導入は、効率化を目指すあまり長年のシステムを変え、既存の労働者の仕事を奪うといった論争につながりやすい。SF小説的に言えば「ロボットが仕事を奪う!」論である。あるいは「AIが仕事を奪う」であろうか。
アニメ制作でAIなどのシステムが人間の仕事を奪うかと言えば、答えは「NO」だろう。CACANiに限れば、現段階では複雑なキャラの動き、複雑な対象物はやはり人間の手で描くしかない。つまりソフトで置き換えられるのは単純な動き、ルーティーンな動きの描写だけだ。それはオー・エル・エムの自動彩色にも通ずるとことがある。
一方で人手不足が深刻なアニメーターらの状況をAIやソフトが救う、という見方もあるかもしれない。ただ、こうおした簡単なアニメ制作作業の自動化が、実際に現場スタッフの負担を軽くするかは、実はより複雑な問題だ。簡単な作画作業が自動システムに置き換えられる一方で、時間と手間のかかる難しい作画のみがアニメーターの手に残ったら……。
アニメーターにとっては、より創造性が必要とされる仕事に集中できるようにも見える。しかし、アニメーターの賃金体系が今と変わらなければ、かえってアニメーターの負担が増す。より手間のかかる仕事だけが人間側に残るからだ。
同時に、創造性を発揮できる技術レベルに到達するためのキャリアを、若いアニメーターがどう築けるのか、といった問題もある。一般的なアニメーターのキャリアは、まずは動画の動きをこなして絵や動きを覚えていくことからスタートするためだ。自動化と共に、AIやソフトにできないより高度な仕事を求められるスタッフの賃金も大きく上昇しなければ、アニメ制作現場のシステムはなかなか回らないだろう。
かつて筆者が大手アニメ会社ぴえろ(東京都三鷹市)の創業者の布川郁司氏にインタビューした際に、同社がかつて自動中割りの開発に挑戦した話を伺ったことを思い出した(この時の試みは技術的な問題で挫折した)。
実は「非効率化」が進むアニメ制作現場
布川氏は「アニメーション制作の予算全体を上げるのは、採算性の問題などから限界がある。ならば1つの作品制作の現場で働く人数が減り、より少ない人員で作品を作ることができれば、1人あたりの収入を増やすことができるのでないか」という考えを話してくれた。それは現在深刻化しているアニメ業界の人材不足対策にもつながる話だ。
ところが実際は、近年のアニメではテレビや映画放映時で流れるクレジットに登場する名前の数は増えている。アニメ制作の工程が増えてより複雑になっている点も理由だが、業界全体の人材不足がこれに輪をかけているのだ。1つの仕事をより多くの人数で細かく割って完成させる傾向が強まっていることから、作品に関わるスタッフの数はむしろ増加している。
例えば、同じ20カットを1人のアニメーターが手掛けるのと、5人のアニメーターで4カットずつ担当した場合の手間の違いを想像すると分かるだろう。アニメ制作の非効率化がコストを押し上げてしまっている。
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