マツダのEVは何が新しいのか?(前編):池田直渡「週刊モータージャーナル」(4/5 ページ)
東京モーターショーの見どころの1つは、マツダ初のEVであるMX-30だ。クルマの生産から廃棄までの全過程を通して見たときのCO2負荷を精査した結果、35.5kWhというどこよりも小さいバッテリーを搭載した。世の中の流れに逆らって、とことん真面目なEVを追求した結果出来上がったのがMX-30だ。
スーパーハンドリングEV
さて、筆者はこのMX-30のプロトタイプに乗ったことがある。その時の記事は前後編としてすでに掲載されているので、お暇な方は是非ご一読頂きたい。前編はこちら、後編はこちらだ。
内容をかいつまんで伝えれば、マツダはxEVというコンポーネント型電動化システムを作り上げた。このシステムは、コンポーネンツを組み替えることによって、1つのシステムから、モーターと大型バッテリーでEVに、モーターと中型バッテリーと充電機能でPHV(プラグインハイブリッド)に、モーターと中型バッテリーとロータリー発電エンジンでレンジエクステンダーEVに、モーターと小型バッテリーとロータリー発電エンジンでシリーズ型ハイブリッドになる。
地域のエネルギー特性に応じて、最適なソリューションを提供するための仕組みであり、中々に洗練されたシステムだと思う。
今回東京ショーで発表されたMX-30はこの内、純粋にバッテリーとモーターで走る、いわゆるBEVであり、いずれ他のバリエーションも順次デビューすると思われる。
マツダはこのxEVのシリーズの説明に際して一貫して言い続けている言葉がある。「マツダが作るならEVはこうなるというものにします」。果たしてどうだったのか?
MX-30(プロトタイプ)は、スーパーハンドリングEVと呼べるモノに仕立てられていた。具体的に言えば、GVC(ジーベクタリングコントロール)を基本に、モーター駆動ならではの緻密な駆動力制御を組み合わせて、クルマの挙動を安定させる技術が投入された。
ロールはともかく、ことピッチングに関してはドライバーにはいかんともしがたい場面が多く、ここで舵輪(だりん)である前輪の垂直荷重が増減すると、舵(かじ)の効きが変わってしまう。それを防止するためには、タイヤの横力をチェックしながら垂直荷重の変化が滑らかになるように駆動力を調整すればいい。
だからMX-30は、盤石に安定しつつも俊敏という相反する動きを可能にしている。その走りはすこぶる楽しく、ロードスターに乗っている時のように「これにいつまででも乗っていたい」と思わせるものだった。
MX-30の性格は研ぎ澄まされた刀のような緊張感のあるものではなく、もっと堅牢(けんろう)で安心感のある優しい感じを受ける。何というか安心して全てを任せられる感じ。小さい子供の頃、たぶん父の背中はこういうものだったのではないか。
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