五輪マラソンはどうなる? 無謀なプロジェクトでコケる組織、3つの「あるある」:スピン経済の歩き方(5/5 ページ)
IOC(国際オリンピック委員会)が、東京2020のマラソンと競歩の開催地を札幌へ変更すると言いだした。東京都は地元開催を訴えているが、無謀なプロジェクトでコケる組織の香りがぷんぷん漂っているのではないか。どういう意味かというと……。
「負のレガシー」を胸に刻む
最後の(3)『苦しくなると「伝統」や「先人の知恵」などの精神論を掲げがち』に関しては、多くの説明はいらないだろう。東京都は平成29年度から「打ち水等暑さ対策の機運醸成(打ち水の普及促進)」という事業をスタートさせている。その目的を以下に引用しよう。
『涼を得るための江戸の知恵である「打ち水」が、東京のおもてなしとして定着することを目指して、「打ち水日和」と銘打った打ち水キャンペーンを展開』
また五輪会場の周辺では、手荷物検査場に都内の小学生などが育てたアサガオの鉢を並べるという。当たり前の話だが、体温を下げる効果はない。が、大会組織委員会は「視覚的に涼しい。涼につながりそうなものは何でも試す」と述べている。
ここまで言えばもうお分かりだろう。効果的な暑さ対策が出てこない中で、最後は「心頭滅却すれば火もまた涼し」ではないが、ド根性で乗り切ろうと言い出しているのだ。
この苦しくなればなるほど精神論・ド根性にすがるのは、先の戦争で日本人は嫌というほど味わったはずだが、現在も甲子園や部活カルチャー、「いけないことをやったら殴ってやるのがいい親」などの「体罰信仰」で脈々と受け継がれている。こういう悪癖に背を向けようとすると、「それでも日本人か!」と四方から袋叩きにあう。この陰湿な同調圧力を労働現場の世界にシステムとして組み込んだものが、ブラック企業やパワハラである。
働く人ならばよく分かると思うが、ブラック企業やパワハラ上司ほど精神論や根性論を触れ回りがちだ。無謀なプロジェクトを前にしても具体的な解決策を提示することなく、「やればできる」「努力が足らぬ」「オレの若いころは」などと、とにかく「心」が大事だと個人を責める。
それは裏を返せば、こういう精神論にすがり始めたときは、組織としての「敗北」が近いということでもある。東京都はこの負けパターンを見事に体現しているのだ。
よく言われることだが、オリンピックは単なるスポーツイベントではなく、開催地に「遺産」(レガシー)をつくる効果があるという。そのような意味では今回の「マラソン・競歩」のすったもんだも、一つのレガシーとなっている。それは、無謀なプロジェクトに対して、甘い見通しと、根性論で乗り切ろうとする組織は、間違いなく大コケするという教訓を後世の人々に伝える「記憶」だ。
苦しくなればなるほど、「絆」とか「がんばれ」という精神論へ傾倒して、自分自身をもっと追いつめてしまう人が多い我々だからこそ、この「負のレガシー」を胸に刻みたい。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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