日本の「ノルマ」が、欧米の「成果主義」よりも陰湿になってしまうワケ:スピン経済の歩き方(4/4 ページ)
ノルマ――。会社で働いているビジネスパーソンにとっては、あまり耳にしたくない言葉かもしれないが、そもそもなぜこの言葉にあまりいいイメージがないのか。歴史をひも解いていくと、意外な事実が見えてきて……。
問答無用で課せられる「義務」
ここまでお話をすれば、もうお分かりだろう。こんなジメっとした連帯責任は、断じて「成果主義」ではない。達成できなければ、「みんなが達成しているのになぜお前はそれができないのだ」と吊し上げられる“ムラの掟(おきて)”である。
つまり、日本企業の中で、さまざまな人たちを追いつめている「ノルマ」なるもののルーツは、実はこの数十年で日本に上陸した欧米の成果主義ではないということである。
日本のノルマはそういう個人レベルのカラっとした話ではない。隣組に象徴されるように、閉鎖的なムラ社会の中で、いかに個人に自分勝手な立ち振る舞いをさせず、命令に素直に従う人間をつくるかを目的としたものだ。
かんぽ生命などの問題を受けて、「過剰なノルマ」を見直す動きが加速している。中には、ノルマを課せないと宣言をする企業も出てきている。
だが、これまで見てきたようにこの問題の本当の「病巣」は、我々が幼いころから脳みそに叩き込まれている「みんなに迷惑をかけるような者は、生きている価値がない」という教育にある。
見直すべきは「ノルマ主義」という表面的な話ではなく、日本人が戦後70年を経ていまだにズルズルと引きずり続けている「全体主義」なのではないか。
窪田順生氏のプロフィール:
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経て現在はノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌へ寄稿する傍ら、報道対策アドバイザーとしても活動。これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行う。
近著に愛国報道の問題点を検証した『「愛国」という名の亡国論 「日本人すごい」が日本をダメにする』(さくら舎)。このほか、本連載の人気記事をまとめた『バカ売れ法則大全』(共著/SBクリエイティブ)、『スピンドクター "モミ消しのプロ"が駆使する「情報操作」の技術』(講談社α文庫)など。『14階段――検証 新潟少女9年2カ月監禁事件』(小学館)で第12回小学館ノンフィクション大賞優秀賞を受賞。
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