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“元祖プロゲーマー”高橋名人が明かす「日本のeスポーツの課題と戦略」高橋名人の仕事哲学【前編】(1/3 ページ)

かつて「名人」と呼ばれた男がいたことを覚えているだろうか――。ハドソンの広報・宣伝マンを務め、「16連射」で名高い高橋名人だ。名人は近年、「一般社団法人e-sports促進機構」の代表理事を歴任するなど、国内のeスポーツ振興にも尽力している。日本のeスポーツはどうなっているのか。現状の問題は何なのか。高橋名人を直撃した。

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 かつて、テレビゲームは子どものおもちゃとして遊ばれてきた。ファミコンの発売から36年。近年ではゲームをスポーツ競技として捉える動きが盛んになってきている。それは「eスポーツ」だ――。アジアや欧米では、プロスポーツ選手のようにeスポーツで生計を立てる「プロゲーマー」が一般的な職業として広く認知されていることは、梅原大吾選手へのインタビューでもお伝えした通りだ(プロゲーマー「ウメハラ」の葛藤――eスポーツに内在する“難題”とは)。

 2022年に中国・杭州で開催予定のアジア版オリンピックとも呼ばれる「アジア競技大会」では、正式なメダル種目になることが決定していて、オリンピックへの種目化も議論が進められている。国内も例に漏れず、「プロゲーマー」が新しい職業として注目を集めてきた。

 そこで今回はeスポーツ界の最重要人物を直撃した。かつて「名人」と呼ばれた男がいたことを覚えているだろうか――。ハドソンの広報・宣伝マンを務め、「16連射」で名高い高橋名人だ。名人は近年、「一般社団法人e-sports促進機構」の代表理事を歴任するなど、国内のeスポーツ振興にも尽力している。日本のeスポーツはどうなっているのか。現状の問題は何なのか。eスポーツの今後の戦略は――。名人本人がITmediaビジネスオンラインの取材に応じた。前・中・後編でお届けする。

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たかはし・めいじん 1959年、北海道生まれ。1982年にハドソン入社。ゲームの営業から開発まで様々な業務に携わるなか、1985年に「第1回全国ファミコンキャラバン大会」のイベントにて「名人」の称号を確立。以降、当時のファミコンブームを追い風に「ファミコン名人」としてTV・ラジオ・映画に出演。一世を風靡し、子どもたちのヒーローとして大人気を博した。高橋名人をキャラクターに使用したゲームに「高橋名人の冒険島」シリーズがある他、関連書籍、レコード、CDなども多数。特技にゲーム機のコントローラのボタンを1秒間に16回押す「16連射」がある。著書に『高橋名人のゲーム35年史 』(ポプラ新書)など (撮影:山本宏樹)

英語の「sport」は本来「娯楽全般」を指す

――名人は日本のeスポーツの現状をどのように見ていますか。

 ここ3、4年でだいぶ広がってきたのではないでしょうか。いい環境になってきたと思いますね。例えば近年では部活動に「eスポーツ部」というものが登場してきて、学校の部活面での浸透も目を見張るものがあります。これは昔だったらありえなかったことです。プログラミングによってゲームなどを開発するパソコン部というのは昔からありましたが、ひたすらゲームをする部活というのは、「ただ遊んでいるだけ」としか捉えられず、(こういう状況になることは)まず考えられませんでした。

――何が変わってきたのでしょうか。

 スポーツに対する見方がここ1、2年で少しずつ変わってきている、というのが大きいと思います。スポーツという言葉を日本人が聞くと、汗をかく、身体を動かすというのがスポーツだという見方が非常に強いです。でも本来、英語のsportという言葉は、身体を動かすことだけでなく、楽しむもの、娯楽全般を指す意味もあります。ですから、海外ではチェスなど頭脳を使ったものもスポーツとする見方が伝統的にあるんですよね。

 この考え方が、学校教育の現場や、若い世代などを中心に日本にも少しずつ浸透してきているのだと思います。「eスポーツ部」という正々堂々とゲームを練習できる部活ができるようになったことはとても良いことですね。ゲームメーカーにいた人間としても非常にうれしく思います。

 とはいえ、この言葉のズレの問題はまだまだ根強いです。私の年代の50代以上を中心に、汗もかかないで手先でちょこちょこやっているのが「スポーツ」だと言っていいの、と違和感を持つ方も多いと思います。この言葉のわだかまりの部分から何とかしていかなければと思います。

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メーカーが協賛することによって生じる危うさ

――毎日新聞社も今年3月に「第1回 全国高校eスポーツ選手権」を開催しました。第2回の開催も決定しています。こうした動きをどう見ていますか。

 これもいい動きだと思います。「eスポーツ選手権」のように、ゲームメーカー以外がスポンサードする分にはいいですね。もしここに固有のメーカーが入ってきたりすると、「この大会の次もうちのゲームを使ってくれるんですよね」という話にもなりかねません。

 例えば9月に開催された茨城国体では、コナミさんの「ウイニングイレブン(ウイイレ)」やセガさんの「ぷよぷよ」が採用されましたけど、どうしても大会の運営にはゲームタイトルのメーカーの協力が不可欠です。

 仮にここにゲームメーカーがスポンサーに入ってしまうと、例えば「ウイイレ」と競合するサッカーゲームを出している他社の作品を使う大会を開こうとしても、難しくなってしまいます。ゲームメーカーが株式会社という形を取っている以上、こうした問題が生じますね。

 また、賞金が出ない、純粋にスポーツとしての大会は、ゲームメーカーとしては宣伝になるのでありがたい話なんです。一方で将来のことを考えると、やっぱりプロのゲーマーをいかに育てていくかを考えなければなりません。賞金が出ない大会だけでは、プロのゲーマーを育てられないので。「プロゲーマーをいかにして食べさせていくのか」という問題を先送りしていることにもなりかねません。

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全国高校eスポーツ選手権は毎日新聞社の主催だ(第2回 全国高校eスポーツ選手権 公式サイトより)

――「ウイイレ」や「ぷよぷよ」などのように、近年ではさまざまなゲームメーカーから「eスポーツ」を冠したタイトルが登場していますが、プロゲーマーの側からすると、ゲーム自体の人気や寿命にも左右されてしまう問題点もあがっています(「プロゲーマー「ウメハラ」の葛藤――eスポーツに内在する“難題”とは」参照)。これについてどう考えますか。

 おっしゃる通り、実際にeスポーツに採用されているゲームタイトルはそのメーカーの持ち物ですから、同じ格闘ゲームというジャンルであっても、例えば「ストリートファイター」と「鉄拳」が同じ土俵では戦うことはできません。

 これは他のスポーツでは見られない問題です。例えば今人気のテニスですが、テニスというコンテンツはどこのものでもありません。企業で争っているのは、ラケットなどのグッズに対してです。

 ところがゲームの場合、そのコンテンツ自体がもうメーカーのものですから、これを何とかしようと思うと、例えばオリンピック委員会とか、日本eスポーツ連合(JeSU)というような運営組織が、競技用のゲームを作らない限りはどうしようもないんですよね。とはいえ、そうなってしまうと何のために各メーカーはゲームを出すのかという話になってしまう。現実的には難しいので、仕方のない部分もあると思います。

 ですので、これは日本に限った話ではないのですが、eスポーツの大会をやろうとしても、結局そのメーカーがどこまで力を入れるかという問題が生じてきます。

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