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“元祖プロゲーマー”高橋名人が明かす「日本のeスポーツの課題と戦略」高橋名人の仕事哲学【前編】(2/3 ページ)

かつて「名人」と呼ばれた男がいたことを覚えているだろうか――。ハドソンの広報・宣伝マンを務め、「16連射」で名高い高橋名人だ。名人は近年、「一般社団法人e-sports促進機構」の代表理事を歴任するなど、国内のeスポーツ振興にも尽力している。日本のeスポーツはどうなっているのか。現状の問題は何なのか。高橋名人を直撃した。

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景表法と賭博法の壁

――国内を見てもメーカー主催で賞金の出る大会はほとんどないように感じます。

 もちろん各メーカーがどこまで宣伝費をかけるかという部分もあるのですが、日本の場合、実はメーカーが賞金を出してしまうといろいろな問題が出てきてしまうんですね。日本の法律では、例えば景品表示法(景表法)の場合、コンシューマーゲームではパッケージ金額が5000円未満であればその「取引価格の20倍」まで、5000円以上であれば「10万円」まで、または「懸賞に係る売上予定総額の2%まで」までしか賞金が出せないと法律で定められています。

 ただ、このやり方だと、趣味でやっている人はいいかもしれませんが、「プロ」として生活していくには厳しいのが実情ですね。

 こうした状況を受け、私が代表理事をやっていた「e-sports促進機構」では、第三者から大会にお金を寄付をしてもらい、その中から賞金を出す形を取っていました。本当に一番スマートなのは、海外の大会のように、大会の入場料の一部を賞金にすることなのですが、日本では賭博法に引っ掛かってしまうのが現状です。

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一般懸賞における景品類の限度額(消費者庁のWebサイトより)

――国内でeスポーツ大会を運営するには、法律の壁があるわけですね。

 そういうことです。例えば米国の「EVO」という大会では、参加費や入場料から賞金が充当されるため、優勝賞金が1000万円を超えることも珍しくありません。優勝賞金が1000万円くらいあれば、上位に入賞するだけでも数百万の賞金にはなりますから、この金額だと「プロ」として賞金だけで生活していくこともできると思います。しかしこの「EVO」のやり方をそのまま国内でまねしようとすると、賭博法違反になってしまいます。国内で高額の賞金を出そうとすると、できないわけではないですが一筋縄ではいかないのです。

――他にはどんな法律に引っ掛かってしまう可能性があるのでしょうか。

 ゲームの場合、ゲームセンターから来ている歴史があるため、風営法にも引っ掛かるんですよ。日本で高額賞金のeスポーツ大会を開こうとする場合、運営は賭博法、景表法、そして風営法の3つに抵触しないかを事前に把握しておく必要があります。eスポーツの国内普及において、法整備の問題も一つのネックになっていると思いますね。

――なぜ法整備が進んでいないのでしょうか。

 恐らくですが、メーカーを中心に今のところは順調に動いているからではないでしょうか。大会そのものは開催されていますし、日本で高額賞金の大会が開催されなくても、米国の大会で勝った選手が日本に帰ってきて、ニュースになり、eスポーツそのものの知名度と人気は上がり続けています。eスポーツを国体でやったところで賞金が出るわけではありませんから、こうした法律が問題視される段階には、まだ来ていないということではないでしょうか。

――法律やメーカー、スポンサーなど、さまざまな問題があると思いますが、これらを打開するにはどうしたらいいのでしょうか。

 選手につくスポンサーの活動がより活発になっていけばいいなと思います。例えばいま「ウイイレ」のプロ選手にはコナミさんがスポンサーについています。また、対戦格闘ゲームであれば、そのメーカーさんであったり、コントローラーのメーカーさんなどがスポンサーについたりすれば、選手個人がその年の試合で成績が振るわなかったとしても、最低限支えていくことが可能になります。

――確かにその通りですね。昨今のゲームメーカーの動きを、どう見ていますか。

 実はゲームメーカーの中でeスポーツ専門の部署ができて取り組めているのはバンダイナムコさんぐらいなんです。どういう部署かというと、さまざまなゲームを通じてeスポーツの大会を開催してもっと盛り上げようというのが狙いなんですけど、普通のメーカーだとそういう部署としては独立させず、広報部などが宣伝の一環として取り組んでいるケースがまだまだ多いようです。

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バンダイナムコエンターテインメントは「鉄拳」をはじめ、多くのタイトルでeスポーツの大会を開催している(バンダイナムコエンターテインメントのWebサイトより)

長期的視点が不可欠

――広報・宣伝の一環だと、どのような弊害が考えられますか。

 eスポーツを宣伝の一環として捉えてしまうと、年度単位の予算の見方が中心になってしまう問題があります。純粋にCMなどの広報活動であれば、1年でどれだけの収益になったかという見方でも問題ない一方、eスポーツの場合はすぐに結果が出るものではありません。少なくとも5年間は続けられるだけの予算が最初に取れないと難しいと思います。

 広報部としてeスポーツを盛り上げようとする場合、例えばAというゲームを売るために、これはeスポーツとして売り出せないかということで、なんとか1年分の活動予算を取る形になると思います。しかしeスポーツの場合すぐに利益が出るものではありませんから、1年目でマイナス50%という収益にもなり得ます。そうなってしまうと、2年目の株主総会で予算の承認が降りず、それ以上eスポーツ活動が続けられない可能性も考えられますね。

――メーカーのeスポーツ活動の推進には、広報・宣伝とは違う長期的な視点が必要ということですね。

 むかし私がハドソンでやっていた「全国キャラバン」というファミコン大会は、もともとは各おもちゃ屋さんでやっていたゲーム大会を全国でやったら面白いんじゃないかというのが始まりでした。初年度の夏休みにやってみたら人気が出たので、最終的に13年続いたんですが、あれも1年目は「スターフォース」、2年目は「スターソルジャー」というように毎年タイトルが違うわけですよね。その年の夏休みにハドソンが売りたい作品をキャラバンで宣伝するというのが題目としてあったわけです。

 そういうことがないとなかなか予算の確保は難しいと思います。

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