小売にはびこる「悪しき先入観や現場主義」をぶっ壊せ! データドリブンなグッデイ三代目社長は、何と戦ってきたのか:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」(3/4 ページ)
社長が自らが先頭に立って統計学を学び、データドリブンな経営を目指す――。そんな取り組みをしているのが、九州北部を中心にホームセンター66店舗を運営する「グッデイ」の三代目社長 柳瀬隆志さんです。10年間の成果はどんなものなのか?
「仮説通りにいかない」のが、小売りの難しさであり面白さ
長谷川: 小売業におけるデータ分析の面白さって、どんなところにあると思う?
柳瀬: 長谷川さんも東急ハンズで経験したと思いますが、小売業って仮説と現実が一致しないことが多いんですよね。つまり、読めない(笑)。グッデイはキャッシュレス還元店なのですが、先日こんなことがありました。
d払いの還元率は一カ月間20%、PayPayは10月5日の1日だけ20%還元だったんですね。普通に考えて、d払いのほうがキャンペーン効果が高いはずです。でも、軍配が上がったのはPayPayのほうなんです。論理的に考えれば明らかにおかしいですよね。経済原則とあまり関係ないところでお客さまの心理は動いているんです。「なぜなんだ、説明しろ」じゃなくて、「そんなもんですよね」ってどこか諦めがないとやっていけない。
長谷川: ほー、面白い。
柳瀬: それから、10月5日のPayPay払い20%還元キャンペーンの日、仮説通りPayPayの使用額が過去最高になったのですが、その翌日、キャンペーンは終わっているのに、PayPay使用が過去2番目に多かったんです。これもおかしな話で、理屈に合わないじゃないですか。
小売業はまさに実証主義ですよね。理屈通りにならないから、推測をもとに議論しても課題解決につながらなかったり、徒労だったりするわけです。データ分析ができるようになって良かったのは、明確に数字でコミュニケーションができるようになったことですね。
そうじゃないと、「偉い人が言ったからこうする」みたいな話になりがちじゃないですか。
長谷川: 「常務のお言葉で、このキャンペーンをやってみました」とかね。
柳瀬: それって、組織として不健全ですよね。よく、「社長がデータの話を持ち出すと、社員は息苦しくないですか?」と、聞かれることがあるのですが、逆だと思います。社長が経験と勘でやりたい放題おかしな施策を打ち出しても、データがなければ根拠が薄く、誰も否定できないんです。
長谷川: データをもとにフラットな議論に持ち込めるのは良いことですね。
柳瀬: 僕は、データはコミュニケーションツールだと思っています。データを用いると、議論が具体的なところへスッと落ちるんですよね。具体的なところに落とさないまま想像や忖度を働かせて議論しても、何の学びも得られません。毎年決まったキャンペーンなら、また翌年の同じ時期に同じ議論をすることになる。そのパターンが結構多いと思うのですが、つらいですよね。
「シニアはPayPayなんて使わない」という思い込みが招くもの
長谷川: データドリブンって、経験や勘、年長者の優位性がなくなるという側面もありますよね。これまでの“俺の経験と勘”に基づいて部下を導くスタイルに「NO」を突きつけるというか。そのあたりで反発もあると思うんですが、どうやって折り合いをつけていったらいいんでしょうか。
柳瀬: 経験と勘も、常にアップデートされているなら悪いものじゃないですよ。でも、何年も前の成功体験から抜け出せなかったり、思い込みがあったり、部下がアイデアを出したときに「それ前にやったんだけど、うまくいかなかったんだよね」と頭ごなしに否定したり……そんなことには意味があると思えません。
PayPayを導入する際、うちの社員からも「お客さまは年配の方が多いので、PayPayなんて使わないですよ」とする声が少し上がりました。でも蓋を開けてみたら、現実は違うんですよね。
長谷川: キャッシュレス化はまさにそうかもしれません。短期間で状況が大きく変わっていますからね。
柳瀬: 一方で、データだけでは不十分なんですよね。ある店舗でキャベツのせん切りを作るスライサーの実演販売をしたらかなり売れたので、全店で同じようにスライサーの実演販売やってみたんです。でも、やっぱり最初の店が一番売れるんですよね。そこには、店舗スタッフの実演の上手さだったり、お客さまとの会話のテンポだったり、お店の雰囲気だったり――といった、データに現れない因子が大きく作用しているんですよね。
僕らは無人店舗を作りたいわけじゃありません。大事なのは、データと人間的な要素とをうまく融合させて収益が上がる方向へもっていくこと。それがこれからの小売業における経営・マネジメントの役割でもあるなと。
長谷川: なるほど。そのあたりがニュー経営センスなんですかね。
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