小売にはびこる「悪しき先入観や現場主義」をぶっ壊せ! データドリブンなグッデイ三代目社長は、何と戦ってきたのか:長谷川秀樹の「IT酒場放浪記」(4/4 ページ)
社長が自らが先頭に立って統計学を学び、データドリブンな経営を目指す――。そんな取り組みをしているのが、九州北部を中心にホームセンター66店舗を運営する「グッデイ」の三代目社長 柳瀬隆志さんです。10年間の成果はどんなものなのか?
他の店長の業務日誌は、アイデアの宝庫
長谷川: データ分析以外にも、IT化を進めているところはありますか?
柳瀬: 店長の業務日誌は、Googleハングアウト チャット(Googleが提供するコミュニケーションツール)で集めていたりしますね。他の店長にもオープンにして、お互いの業務日誌がいつでも見られるようにしています。
長谷川: なるほど。他の店長の業務日誌が見られるようになれば、「あの店で成功しているあの施策、自分の店でもやってみよう」といった動きも生まれやすくなりますね。
柳瀬: そうなんです。こちらが言わなくても、店長が自主的に動こうとしてくれます。この変化は結構大きいと思いますよ。
お客さまを盾に変化を受け入れない――店舗にはびこる悪しき現場主義
長谷川: 店舗って、ITを使って新しいことを始めようとするとき、「お客さまのため」と「お客さまに怒られたくない」がごっちゃになることがあるんですよね。
小売業は店舗の力が強いから、店舗側が「この取り組みは、ITに慣れていないお客さまのご迷惑になる」と主張すれば、本部側は引き下がらざるを得なくなるケースがある。ほんの一部の人のために新しい取り組みができないということになってしまうんですよね。
柳瀬: 良い現場主義と悪い現場主義がありますよね。「お客さまのためにやりましょう」とか、経営側が気付かないことを提案してくれるのは良い現場主義だと思うのですが、「うちのお客さまは使わないんですよね」みたいな話は、本当なのかなって思いますよね。
実は僕がグッデイに入社したころ、会社のWebサイトもお問い合わせ用のメールアドレスもなくて、なぜなのか聞いたら、「お客さまはWebを見ないです」と言われたんです。そんなわけないだろ(笑)と。変えるのが面倒くさい、保身、自分の意見を通したいときに、お客さまを盾にするのはおかしいと思ったんですよね。
長谷川: 店長によってすごい差があって、「(新しいことを)難儀だけどやるわ」って人と、「アルバイトの子がそんな難しいことできるわけないやん」みたいに何でもかんでも否定する人とがいますね。「そこを何とか」とお願いすると、「じゃあおたくらがマニュアル作って検証もスタッフ教育もぜーんぶやってくれたらええよ」みたいな。
柳瀬: ある意味、そこがマネジメントのしどころですよね。僕が東京の商社を辞め、(次期社長として)グッデイに入社した当時悩んだのは、「変えるのがいやだ」という人が多く、その意見に押しつぶされそうになることだったんですよね。
そんなとき、たまたまコーチングのセッションを受けて、「自分がどうしたいのか決めて動かないから、いろんな意見に負けてしまう」ということに気付かされたんですね。自分の価値観とは何か生まれて初めて考えました。そして、「新しいこと」「変化すること」「挑戦すること」これを言っているうちは、自分はぶれないなって腹落ちしたんです。「クラウドは危ない」とか、「データ分析しても意味がない」とか、いろいろ言ってくる人はいます。でも、「聞き入れるところ」と、「曲げないところ」を自分の中で分けておかないと。
創業社長って、そういう悩みが少ないですよね。自分と合う人を採用するし、鶴の一声も通りやすい。でも、僕は三代目なので、初めは周囲が何を考えているのか分からなかった。周囲も僕のことを「前の社長の息子」として見るのでやっぱり話しづらかったと思います。だからもう吹っ切って、「僕はITのことを話す人」というキャラ付けにして、割り切っちゃったんですよね。「相手を納得させなきゃ」なんて考え始めるとキリがないし、そのたびに自分の軸を曲げてしまうようでは、かえって信用されないんです。
長谷川: 僕が、「柳瀬さんて不思議な人だな」と思うのは、「この環境では無理」という話が一切出てこないこと。ほら、よく居酒屋談義であるじゃないですか。都会と地方の格差とか、人口減ってあかんねんとか、東京の商社で働いていたときは周りが優秀な奴ばかりだったけど戻ってきたら……とか、そういう話が酒の席でもみじんも出てこない。達観した人だなと。
柳瀬: それは、福岡に戻ってからの10年間で乗り越えたんじゃないですかね(笑)
【後編に続く】
グッデイ 代表取締役社長 柳瀬隆志氏プロフィール
1976年福岡生まれ。 東京大学経済学部卒業後、2000年三井物産入社し、食料本部に所属。冷凍食品等の輸入業務に取り組んだ後、2008年嘉穂無線に入社。 営業本部長・副社長を経て、2016年6月嘉穂無線ホールディングス、及びグッデイの社長に就任。2017年4月からは、グループ会社のカホエンタープライズにて、クラウド活用やデータ分析を行う事業にも取り組んでいる。
ロケスタ 代表取締役社長 長谷川秀樹氏プロフィール
1994年、アクセンチュアに入社後、国内外の小売業の業務改革、コスト削減、マーケティング支援などに従事。2008年、東急ハンズに入社後、情報システム部門、物流部門、通販事業の責任者として改革を実施。デジタルマーケティング領域では、Twitter、Facebookなどソーシャルメディアを推進。その後、オムニチャネル推進の責任者となり、東急ハンズアプリでは、次世代のお買い物体験への変革を推進する。2011年、同社執行役員に就任。2013年、ハンズラボを創設し、代表取締役社長に就任(東急ハンズ執行役員を兼任)。初年度から任期中黒字経営を達成した。その後、メルカリ執行役員CIOを経て、2019年12月、プロフェッショナルCDOとして独立。日本のデジタル変革を加速させるため、24時間365日働く(働くと遊ぶを融合させる)所存。
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