日米貿易協定は“不平等条約”か――安倍政権が国民に隠す「真の欺瞞」:“いま”が分かるビジネス塾(3/3 ページ)
牛・豚肉などが焦点だった日米貿易協定。自動車の追加関税も「回避」となったがそこにはカラクリが。政府が隠そうとした協定の“欺瞞”を筆者は指摘。
政府が正しい情報を出す保証は全くない
先ほど述べたように、自動車の追加関税については継続扱いと明記されたが、どういうわけか、この部分については英文のみが作成されており、日本語の文書が存在していない(それ以外の部分については、当然だが、英語と日本語の両方が存在する)。
しかも、一部の政府関係者が「関税撤廃は約束された」という趣旨の発言を行っており、この発言が拡散したことで、日本が交渉に勝ったというイメージが醸成された。その後、メディアが日本語の文書が存在していないことを報じたことで、ようやく事実関係が伝わったというのが真実である。
近年、メディアが世論に批判されるケースが増えており、一部の国民は「メディアは政府が言ったことをそのまま伝えるべきだ」と声高に主張している。しかし、今回のケースからも分かるように、政府が正しい情報を出す保証は全くない。そもそも政府が出す情報を知りたいのであれば、政府のWebサイトを閲覧すればよいだけの話であり、マスメディアを頼る必要などないはずだ。「メディアは政府の情報をそのまま報道すべき」という話は自己矛盾といってよい。
スタートする前から交渉の結果はある程度、見えているという交渉術の原理原則に立てば、今回の貿易交渉で追加関税が継続扱いになったことは、やむを得ないというのが客観的な見方だろう。むしろトランプ氏が再選にむけて焦っていることは日本にとってラッキーだったかもしれない。
政府はこの事実を堂々と国民に説明すればよいはずだが、逆に一連の経緯を隠そうとしてしまった。こうした虚偽の説明があると、他にも隠していることがあるのではないかとの疑心暗鬼を生むのは当然の結果だろう。
これに加えて、国民への説明に躊躇(ちゅうちょ)している日本政府の優柔不断さは、相手にとって格好の餌食となる。
次回の日米交渉では、米国が再び厳しい要求を突きつけ、「この文言は前回と同様、日本文には書かなければよいのでは?」と耳元で囁くに違いない。その意味では、今回の交渉は失敗だったと言わざるを得ないだろう。
加谷珪一(かや けいいち/経済評論家)
仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。
野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。
著書に「AI時代に生き残る企業、淘汰される企業」(宝島社)、「お金持ちはなぜ「教養」を必死に学ぶのか」(朝日新聞出版)、「お金持ちの教科書」(CCCメディアハウス)、「億万長者の情報整理術」(朝日新聞出版)などがある。
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